公共図書館と古書店の使い方

前回「ブックオフのススメ」を記しましたが、やや言葉足らずな感が私の中に残っておりますので、表題のことをテーマとして記し直したいと思います。

私は大学に入学して形だけでも研究活動を行うようになってから、古書店と図書館(主として、大学図書館)を大いに利用するようになりました。というのも、私は人文学徒*1ですから、基本的には文献で先行研究を参照するところから研究を始めます。しかしその都度必要な本を購入していったのでは、私のような超がつくほどの貧乏学生はすぐに軍資金が尽きてしまいますし、多少裕福な学生にとっても、決して安くはない研究書を購入することは容易くありません。

ここで大いに利用されたいのが、公共図書館です。特に研究書なんていうものは、確かに手元に置いておきたい本もありますが、学部生レヴェルではたかがしれています。1度読んでしまったらもう当分は読む必要はなくなってしまうものが大半です。値段が高くて1度しか読む必要のない研究書は、図書館が1冊持っていてくれれば、多数の研究者にとって事足りるわけなのです。

しかしマナーの悪い利用者もおりまして、特に大学図書館利用者(つまり大学生)に多いのですが、鉛筆などで傍線を引いたり、書き込みをしたりする者もいるわけです。ここで嘆息する向きもありますが、私などはこう考えます。私の前にこの本を借りた人は、この文章に注目したのか、などと。この誰かと知れぬ彼の知恵を借りたことは少なくありません。

これは倫理学者の鷲田小彌太も言っていることですが、公共図書館にはやはり誰も買いそうになくて、読めば当分読まなくてもいいような、図書館に1冊あればいいような値段の高い本を買ってほしいですね。市川拓司だとかセカチューだとか電車男のようなベストセラーを読みたい人は、大して値段も高くないし、大体市井の小さな本屋に行ってもすぐに買えるわけですから、自分で買って読んで下さい――最近私は公共図書館のウェブサイトをよく参照しますが、予約上位の書籍には、これらのベストセラーが列挙されています。そんな20件も30件も予約待ちをするくらいなら、買ってしまった方が早いと思いますが。図書館には、図書館しか買わないような本に多く予算を割いてほしいものです。

あるいは、ベストセラーとは即ち多く世に出回っている本ですから、即ち古書店に売りに出される数も多いわけです。この時初めて古書店の真価が発揮されるでしょう。マンガや続編物なら別として、世のベストセラーは基本的に単発です。よってその本がベストセラーとなるかどうかは、初版発売から暫く後になります。従って読者層によって時間差が生じてまいりますので、ベストセラーになった直後には、古書店にはその本がより多く売りに出され、時間が経てば経つほど古書店で(かつての)ベストセラーが、より安い値段で、手に入れやすくなるという寸法です。

但し私はそのような古書店の使い方はあまりいたしません。その方法で仕入れたのは、あの綿矢りさの『蹴りたい背中*2ぐらいです(但し未読)。私は、古書店には「一期一会」の出会いを求めていきます。「何かいい本があるかしら」くらいの気分でフラっと出かけます。ほしい本の書名がわかっているときは、新書店か図書館に行って手に入れます。

特に私がブックオフを利用するときは、主に文庫ばかりに目が行くのですが、岩波や講談社などの新書は特に、各研究者が若い学生や専門外の人に対して、持論の導入やわかりやすい解説として書いていますので、私は面白かった新書があれば、今度はその著者の本格的な(つまり値段が高くて手に入れ難い)研究書をあたるという風な読書のスタイルをとっています。ただ最近は、折りしも新書ブームであるらしく、各出版社がこぞって新書を創設していまして、新書それ自体がある種の研究書になりつつある傾向はありますが。

ブックオフやその他フランチャイズ古書店の功罪は、何と言っても、古本が地方にも流通するようになったことでしょう。マンガなどを除けば、本を大量に必要とするのも、また大量に売りに出すのも、大学生や大学教員です。あるいは大学それ自体も図書館などから本を古書店に処分する場合もあります。

しかし地方に行けば行くほど、大学なんてありません。私の郷里、福島県郡山市には3つしか大学がありません*3。それらの大学生にどれだけの読書量があるかはわかりませんが、売りに出される古書数もたかが知れています。大都市の今まで滞留していた古書が地方にも流れてくるようになったことは、少なくとも私のようにしばしば地元に帰省していて、暇つぶしに読書する人間には有り難いです。

*1:文系と呼ばれる学問は、大別して社会科学系と人文科学系に分けられます。後者は、文学、言語学歴史学などが当てはまります。私は文学部の学生です。

*2:2003年、河出書房新社

*3:郡山女子大学奥羽大学日本大学工学部の3つ。