PARADOXにホルツヴァルト兄弟が再加入

アレックス(ドラマー、RHAPSODY OF FIRE他)とオリヴァー(ベース、BLIND GUARDIANサポート他)のホルツヴァルト(ホルツワース)兄弟(Alex and Oliver Holzwarth)が、ドイツのスラッシュメタルバンドPARADOXに加入したことが6月18日に明らかになった。ホルツヴァルト兄弟は同バンド2000年のアルバムCollision Courseでもプレイしており、このたび「再加入」となった――というニュースが、8月30日現在、日本語のインターネットメディアでは、2ちゃんねるの「ハードロック・ヘヴィメタル板」のたった1つの投稿(コチラまたはログ速のミラー)以外には見られないので、わたしが書いておこうと思う。

オリヴァーによれば、今回の再加入は、2010年に兄弟とPARADOX唯一のオリジナルメンバーでリーダーのチャーリー・シュタインハウアー(Charly Steinhauer)(ヴォーカル・ギター)が再会したことがきっかけとなったようである。PARADOXは2010年1月に当時のギタリストとドラマーが脱退しており(しかし2週間後にドラマーは復帰)、バンド内の人事が混乱しているときに元メンバーと再会したことが今回の再結集に影響しているものと思われる。ちなみに新ギタリストには2010年1月にすでにギリシア人のガス・ドラックス(Gus Drax)が加入している。なおシュタインハウアーは2011年5月にホルツヴァルト兄弟も参加するメタルブロジェクトBRUTAL GODZに加わっているが、時期的に考えて、この加入劇には兄弟のPARADOX再加入が機縁となっているようにも思われる。

ヘヴィメタル業界では、数々のバンドやプロジェクトを渡り歩く兄弟としては、ホルツヴァルト兄弟はアンダースとイェンスのヨハンソン兄弟(Anders and Jens Johansson)同様に有名である――というか、渡り鳥兄弟はこの2組くらいしか思いつかないし、ヨハンソン兄弟は現在は別々のバンド、アンダースはHAMMERFALLで、イェンスはSTRATOVARIUSを軸にして、各々成功している。

ヨハンソン兄弟に比べればホルツヴァルト兄弟のほうが有名ではないが(特に正式メンバーとして参加しているバンドがないオリヴァーが)、少なくとも前任者たちよりは明らかに名が知られており、PARADOXが存在感を高めるのには十分すぎる再加入劇で、ファンとしては嬉しい限りである。シュタインハウアーとのあるインタビューによれば、1987年と89年に計2枚のアルバムをリリースしたまま解散状態になっていたPARADOXを2000年に1度復活させるきっかけとなったのが、80年代からの知り合いだったホルツヴァルト兄弟からの働きかけだったようなので、もしかすると今でも彼らはPARADOXとシュタインハウアーにたいしてそれなりに思い入れがあったのかもしれない。

あるいは、これは邪推だが、先頃中心人物の一人であったルカ・トゥリッリ(Luca Turilli)(ギター)が「脱退」したRHAPSODY OF FIRE(当人たちは「友好的に分裂 friendly split」したとは言っているが。オフィシャルサイトの2011年8月16日付ニュースを見よ)がもたなくなることを恐れて、アレックスは逃げ場所として別のパーネントバンドを用意するためにPARADOXに再加入したのでは、とも考えられる――彼はトゥリッリの新バンドにも参加するらしく、自らのパイを確保するためにうまく立ち回ろうとしているようにも見える。

個人的には、ホルツヴァルト兄弟にはこのメタル世界にも稀な不遇バンド、PARADOXにパーマネントメンバーとして定着し、バンドの活躍に是非とも一役買ってほしい。

正直言って、2つに分裂したRHAPSODYバンドが、それ以前と同様のクオリティを求めるのは難しいように思える。いかにわたしがさほどシンフォニックメタルに親和性がないとしても、アルバムPower Of The Dragonflame(2002年)くらいまでの質の高さが理解できないわけではない。むしろ逆に、Triumph Or Agony(2006年)以降の、当時の所属レーベルとの契約トラブルを起こし、そして北米進出にしくじった時期以降脱することができていないマンネリ感によって、わたしは現在のRHAPSODYに関心を失っている。その上、今や音楽的中心人物を失ったOF FIRE側しかり、メタル界屈指の歌唱力を誇るヴォーカリスト、ファビオ・リオーネ(Fabio Lione)を帯同できなかったトゥリッリバンド側しかり、双方にどうして期待を寄せることができるだろうか。

それならば兄弟には、とりわけアレックスにはPARADOXに重点を置いてもらい、このヴェテランのような、新参者のような、立ち位置が捕らえがたいバンドに貢献してもらったほうが、彼らにとってもプラスなのではないかとすら思えるのは、PARADOXファンのひいき目だろうか。

再加入に際しオリヴァーは次のようにも言っている。「僕はチャーリーをドイツのジェイムス・へットフィールド(James Hetfield)(METALLICAのヴォーカル、ギター)と呼ぶことがあるよ。少なくとも彼はMETALLICAがもはややらないような曲を書いている」。これは自分たちの新しいリーダーにたいする「ごますり」であろうが、復活後にリリースされた2枚のアルバムを聴くかぎり、「昔ちょっとだけレコードを出したことのあるオッサンミュージシャンが、当時のバンド名を使って趣味程度に作ってみた」程度の出来と意気込みでは明らかにないことがわかる。

「メロディックスラッシュ」とでも形容すべき音楽性と、シュタインハウアーの攻撃的な職人芸的リフは、日本の保守的なメタラーにこそ聴いてもらいたい。

2012年にリリースされる予定という新作は、隠れた名盤として誉れ高い、彼らの2枚目Heresy(1989年)でも採用された「異端信仰」(heresy)をテーマにしたコンセプトアルバムになるようだ。このアルバムは、とりわけ1曲目の表題曲は本当に名曲である。どうしてこのアルバムをリリースしたあとに、このバンドが沈黙し、解散しなければならなかったのか、全く理解できない。同じスラッシュメタルバンドで、同時期にリリースされたDESTRUCTIONのRelease From Agony(1988年)、SODOMのAgent Orange(1989年)、KREATORのExtreme Aggression(1989年)と比べて、Heresyが劣っている点を見つけるのは、なかなか困難だ。

ちなみに、ウィキペディアから引っ張ってきた以下の画像を見ればわかるように、シュタインハウアーは左利きで、右利き用のフライングVを反対にして弾いている。賢明な読者諸氏ならお気づきのように、わたしがこのバンドを追っかけ続けているのは、楽曲や演奏もさることながら、左利きのプレイヤーが在籍しているからである。

PARADOX "Heresy" (Heresy, 1989.)

(11年9月3日追記)ルカ・トゥリッリに帯同してRHAPSODY OF FIREを脱退した仏人ベーシストのパトリス・ゲール(Patrice Guers)に代わり、同バンドにオリヴァーが加入したことが明らかになった。むべなるかな、という感じである。