鉄道かってばなし

鉄道ひとつばなし3 (講談社現代新書)

鉄道ひとつばなし3 (講談社現代新書)

5月20日(金)深夜の「タモリ倶楽部」は鉄道ネタであった。それでふと原武史の『鉄道ひとつばなし』のことを思い出し、もしや新刊が出ているのではと思って調べてみると、なんと3月20日に第3巻が出たばかりだという。偶然なのか、天啓なのか。翌日、秋葉原の有麟堂で購入。同時購入は、同じ著者の『「鉄学」入門――車窓から眺める日本近現代史』(新潮文庫、2011年)と『滝山コミューン一九七四』(講談社文庫、2011年)。

前2作に比べて、本書には廃線、廃止列車にかんする著者の考えがより濃く表明されている。第8章「日本の廃線シンポジウム」がその典型である。
ところでわたしの愚弟も、廃線マニアである。もともと恐竜やドードーアホウドリなどの絶滅動物に並々ならぬ関心を抱いていた彼は、大学の地質科学科に入学し、古生物学を専攻し、化石発掘などの調査をしていた。廃線と絶滅動物に共通しているのは「すでに失われており、こんにちその痕跡を微かに知ることはできるが、しかしもはや取り戻すことのできない存在である」という点だ。失われたものにたいする愛着が、愚弟にはある。

てなことを得意げに言ってやったら、「前に同じことを言ったことあったろ」と言われてしまった。やれやれ。

もう一つ。第4章「鉄道から読む・鉄道で遊ぶ」の「駅名が人名になる」では、1つの駅名を人名として読んだり(例:東葉高速鉄道線・飯山満[はさま]駅→「いいやまみつる」など)、2つ以上の駅名を繋げたり捩ったりして人名を作り出す(例:JR北陸本線森田駅と春江駅で「森田春江」など)という鉄道マニアの大して面白くもない遊びが紹介されている。

JR武蔵野線で2012年に、命名の理由がよくわからない「吉川美南」という新駅が開業する。路線上は吉川駅と新三郷駅の間で、方位は吉川駅から見て南東だ。設置予定地の住所は、恐らく采女新田だろう。多分吉川市域にある駅の中では最南部にあるから「みなみ」と名づけたいのだろうが、だったら「吉川南」でいいではないか。「吉川美南」という女子のような名前は、「鉄道むすめ」かAKB48で出てきそうな名前で――実際AKB48には高橋と峯岸の2人の「みなみ」がいるし、前田敦子演じる『もしドラ』の主人公も「みなみ」だ――、何とも気色が悪い。

鉄道の駅名について、ついでに言っておきたいことがある。東京スカイツリーの最寄駅の1つである、東武伊勢崎線業平橋駅が2012年春に「とうきょうスカイツリー駅」に改名されるという。正直、最低のネーミングセンスである。しかも、何で漢字の「東京」ではなく平仮名の「とうきょう」なのか。業平橋駅は、開業時は「吾妻橋」(1902-1910年、廃止時期含む)という駅名で、のち現在の浅草駅が開業するまで「浅草」を名乗っていた時期がある(1910-1931年)。こういった経緯からわかるように、業平橋駅は自分の名前を大事にしていない。しかも、伊勢崎線の始点である浅草の次は業平橋と、どことなく歴史的な味わいのある駅名が並んでいるのだが、これが「浅草」→「とうきょうスカイツリー」→「曳船」となったならば、下町の味わいも完全に損なわれてしまうだろう。何だかガッカリだ。