この子の名前子のつく名前

12月3日、明治安田生命保険が例年恒例の、今年生まれた赤ちゃんの名前ランキングを発表した。調査は、今年10月末までに同社と契約した被保険者を対象に実施した。男児は4078人、女児は3805人の名前を集計した。

注目したいのは、女児2位にランクインした名前「莉子」だ。朝日新聞魚拓)(12月5日確認)によれば、「子」のつく名前は1983年以来27年ぶりにトップ3に入った。読売新聞(12月5日確認)は、文字別では「子」は昨年17位から14位に上昇したと報じている。

なお朝日が「莉子」は「2009年に放送されたドラマのヒロインの名前」というので、調べてみると、フジテレビ系で09年7月から9月にかけて放映された「ブザー・ビート〜崖っぷちのヒーロー〜」において北川景子(24歳)が白河莉子を演じていた。
わたし(26歳)の世代になると、「子」がつく女性の名前は珍しいとまでは言わないが、数はかなり少ないと言ってよい。「子」がつく名前は古風それどころか古臭いという認識は、過去30年以来人々に浸透していると言っても間違いないだろう。「莉子」を演じた、たった2歳とはいえ年下の北川景子の名前も、結構古風(それも「子」以上に「景」の字が)である。

かなり昔に、金原克範『“子”のつく名前の女の子は頭がいい――情報社会の家族』(洋泉社、2001年)という本を借りて読んだ(参考)。それゆえ内容をうろ覚えであることを断っておくが、同書によれば、娘に「子」のつく名前を与える親は保守的であり、教育熱心だから、娘は学力水準の高い子どもに育ち、偏差値の高い高校に入学できるという(同書は、かつて新聞に公表されていた宮城第一女子高校の合格者名簿を元に議論を展開していた……と記憶している。宮城一女宮城県下最難関の女子高だった)。同書の結論が正鵠を得ているかどうかは本稿の論題ではないが、直感的には、当て字雑じりの、親の知性を疑いたくなるような、妙ちくりんな名前よりは、「子」のつく名前を与えた親のほうがマトモで高い知性を持っているのは間違いないと確信できる。

しかし、「子」がついているとはいえ、なぜ「りこ」と名づけるにあたって「莉」の字を用いた親が多かったのだろうか。植物のジャスミンは「茉莉(マツリ)」とも書かれるそうで、「莉」は一般的にはこの「茉莉」が書かれるとき以外の使用例はないように思われる。だとすると、それにはやはり、朝日が示唆するように、テレビドラマの影響が大きいように思われる。さもなくば、一般には使用例の少ない「莉」の字を探し当てる親がこんなに多いはずはないからだ。「莉子」の親たちの中には、白く小さなジャスミンの花にちなんで、娘にそのような可憐な名前を与えた者はいるかもしれない。しかしそうではなくて、自分の子どもの名前を考えるのに、そのときやっていたテレビに影響されたのだとしたら、そのような親はいかがなものか。

「莉」はさておき、前述したように、「子」のつく名前は自体もまた人気が上がってきているという。今をときめくアイドルグループAKB48に注目してみると、現メンバーでは、篠田麻里子(24歳)、前田敦子(19歳)、大島優子(22歳)ら5人が「子」をつく名前を持っている(Wikipediaを元に筆者調べ)。一体総勢何名なのかよくわからないこのグループの中でもかなり有名な、わたしですら知るくらいテレビやラジオに出演している3人に「子」がついているということは、「子」の人気に多少なりとも影響するかもしれない。他方で、元メンバーの中西里奈(22歳)がいまやAV女優やまぐちりこ(20歳)として活躍しているのは、何とも皮肉な形ではあるが、「りこ」人気を先取りして証明していたことになるのだろうか。