社民党は連立を維持せよ

福島前大臣の行動は、政府内の閣僚としては度しがたいものであったと断じざるを得ない。今週日曜日(23日)鳩山首相は「辺野古」を表明したが、その後の火曜日(25日)に沖縄を訪問して仲井真同県知事、稲嶺名護市長らと会談して辺野古周辺への米軍基地移設を反対する考えを伝えるなど、内閣の一員であるにもかかわらず単独行動をとり続けた。これは、左翼的な市民運動家としてはもちろん誉められた振る舞いであり、左派的な国会議員としてもとるべき行動なのかもしれないが、閣僚としてあるまじき、自らの職責の自覚に欠けた行為であることに間違いはない。もし仮に、内閣の長たる宰相がとんでもなく愚か者で、馬鹿げた判断しか下せない者であったとしても、内閣に属する閣僚は、彼に従うべきであり、それができない場合は、辞職すべきである。

福島氏や社民党、あるいは彼らを支持する左派の市民運動家たちが言うように、沖縄から在日米軍を撤退させよという意見には、一定以上の説得力がある。わたし自身は、沖縄県民の負担軽減という観点から、沖縄の米軍問題は解決されるべきだと考えている。

他方で、安全保障という観点を、わたしたちは忘れてはならない。取りも直さず国家は自国民を外部の脅威から保護する義務がある。平和主義的な理想から、武力よりも対話で諸問題を解決しようとする努力は、軽視されるべきではない。しかし、アメリカのブッシュ前大統領なら「ならず者」と呼んだであろう国家は、確実に存在する。

韓国の哨戒艦を沈没させたのは北朝鮮ではないという主張を退けるために、韓国政府は韓英米スウェーデンの5か国からなる軍と民間の合同調査団を設置して、調査した。イラク戦争開戦以前にアメリカは同国の大量破壊兵器の存在を主張していたが、蓋を開けてみればそんなものは存在しなかったという例が示すように、5か国の調査が非誠実なもので、その結果が北朝鮮の言う通り「捏造」である可能性は否定できない。とはいえ、北朝鮮が日本や韓国など中国以外の周辺国家にたいして友好的かと言えば、明らかにそうではない。わたしたち日本人は緊張感を持ってこの国を注視せざるをえない。

このような周辺国家の情勢下にあって、日本から米軍を撤退させることはありうる判断である。しかし米軍が去ったあとに日本の国土と人民をどのようにして防衛するかを、政府は極めて真摯に考えなければならない。そのとき自衛隊を拡充したり、それどころか憲法9条を改正して軍隊を保持できるようにするというなら、検討に値する議題であろう。憲法9条の理念は美しく重要だが、今のところ在日米軍とのワンセットでこそ、この理念が語ることができるという皮肉な現状をわたしたちは忘れてはならない。社民党が言うように、何でも「対話」で片付く問題なら苦労はないが、「対話」の席上に連れてくるだけで一苦労の相手がいる。そもそも「対話」こそが政治の本質であり、「対話」を強調することは、「軍事力の安易な使用を自粛している」ことを意味するにすぎない。

昨夏の衆院選で民社国の連立政権に投票した者が期待したのは、沖縄からの在日米軍を撤退させることだけではなかったはずである。内政上の問題、とりわけコイズミ式のネオリベラルな改革で相当痛んだ貧困層、経済的弱者への手厚い社会保障に関しても、社民党は相当期待されていたのではなかっただろうか。罷免後に福島氏は「社民党は沖縄を裏切ることはできない」と述べた*1が、在日米軍の問題で福島氏は沖縄との絆を守ったけれども、それ以外の政策の面で彼女は国民を裏切ったのではないだろうか。

最初に述べたように、「辺野古」反対なら福島氏は大臣を辞職することができたにもかかわらず、彼女自身はそれを決断することができなかった。なぜだろうか。そこには、「辺野古」は反対だが、党としては連立与党から離脱したくはなく、彼女自身も大臣を辞めたくなかったからではないだろうか。事実、読売新聞(28日4面)によれば、27日夜に開かれた社民党の拡大三役会議で福島氏と重野幹事長、又市副党首、阿部政審会長らが対立し、又市氏が福島氏の党首解任まで言及するほど紛糾したという。それはそうだ。共産党のように「確かな野党」という役割に活路を見出した政党を別とすれば、全ての政党は単独であれ、連立であれ、与党を目指すべきであり、さもなくば投票民がなぜある政党に投票するのか、意味がなくなるであろう。あるいは、単なるアピールに過ぎなかったのか――だとしたら、最悪である。

福島氏によれば、「社民党ボトムアップの政党」なので、全国幹事長会議を開いて政権離脱について議論していきたいそうだが*2、これも党としては与党に留まりたいという思惑が透けて見える――政権与党にこだわるという姿勢は、政党として当然である。また社民党は「福島大臣の罷免に抗議する」と題された声明の中で、「連立政権のあり方について重大な決定をせざるを得ない。今月30日の全国幹事長会議で全党的な論議を行い、誤りのない最終判断を下すこととしたい*3」と述べているということは、少なくとも党所属の国会議員12人の中でも意見が割れているからトップダウンでは意志決定ができず、地方の党員の意見を聞かなければ身動きがとれないということであろう――読売新聞(25日2面)によれば、先に挙げた重野、又市、阿部の3氏に加えて、辻元国土交通副大臣は連立維持派なのにたいして、照屋国対委員長山内徳信参院議員は離脱派であるとされている。照屋、山内両氏は沖縄出身・選出の議員である。また福島氏はどちらかといえば離脱のほうに傾いていると示されている。

連立与党の政治家は、自らの選挙区に配慮し、またそれ以外の選挙民にたいしても配慮すると同時に、日本と関係の深い諸外国にも気を遣わなければならない。とはいえ、沖縄の基地返還に関して、いかなる理由はあれ、与党内にいるのと、下野するのとでは、発揮できる影響力に雲泥の差があることは言うまでもない。

このような難しい選択を迫られたときこそ、社民党は連立与党内に残るべきだ。煮え湯を飲まされる思いかもしれないが、決断を過たずに頑張ってほしい。福島氏のようにいつまでも市民運動家の頃が忘れられないような人ではなく、怜悧な政治家が社民党にはまだいることと信じたい。

昨夏、民社国を支持した人々がいま何よりも恐れているのは、政界再編だ何だと言って、96年のときのように、結局自民党ないしは自民党崩れの小政党を含む保守政権に返ることである。これは最悪である。いまの鳩山政権は、恐らく日本で初めての中道左派政権である。ある程度の偏見を自覚したうえでしかし断言するが、最近注目されているらしいみんなの党ネオリベ政党であり、党首の渡辺喜美なんてのはコイズミ2号か、それ以上の新自由主義崇拝者である。この党を躍進させてしまったら、日本はまたコイズミ時代に逆戻りであり、それを喜ぶのは一部の富裕層だけである。