ロニー・ジェイムズ・ディオとわたし

He did not die young, but not so old to die.

Barks『ロニー・ジェイムズ・ディオ、死去』

Dio : 2010-05-17

レインボー、ブラック・サバスなどに在籍したロニー・ジェイムズ・ディオが、現地時間の5月16日 午前7時45分に亡くなった。

彼のオフィシャルサイトに掲載されているロニーの妻・ウェンディからのメッセージによると、彼は、多くの友人や家族に見守られながら安らかな眠りについたという。またウェンディは、ファンをはじめ多くの人たちからロニーや家族へ贈られた愛情や励ましに感謝するとともに、彼の音楽は永遠、と、言葉を結んでいる。

ロニー・ジェイムズ・ディオは、2009年11月に、胃がんを患っていることを公表し、闘病生活を送っていた。またこの発表を受けて、ロニー・ジェイムズ・ディオのオフィシャルfacebookには、3000件を超えるコメントが寄せられていた。

HR/HMのボーカルスタイルそのものを作り上げ、ロック史に偉大な足跡を残したロニー・ジェイムズ・ディオ。天国にメロイックサインを捧げよう。ありがとう、ロニー!*1

Such sad news about Ronnie James Dio's passing...I thought he was healing. We not only lost a legend but we lost a friend. Ronnie was a true gentleman of rock...always kind and giving. I was proud to know him....everyone he touched was raised higher. His energy and legacy will live on...and i ....as a fellow member of Rainbow...will continue to sing his praises and his songs. May god hold him in his hands...RIP.
May 17 at 12:04pm

http://www.facebook.com/joelynnturnerofficial/posts/123950627623219


元RAINBOW、元BLACK SABBATH、現DIO、現HEAVEN AND HELLのヴォーカリストロニー・ジェイムス・ディオが、現地時間5月16日7時45分(日本時間16日21時45分)にヒューストンで亡くなった。67歳だった。彼の妻であり、マネジャーであったウェンディ・ディオが彼の死に際して次のように述べたとき、正直わたしは驚きを隠せなかった。

「彼が安らかに息を引き取る前に、本当に多くの友人たちと家族は私的な別れの言葉を伝えることができました。」
"Many, many friends and family were able to say their private good-byes before he peacefully passed away."*2

ああそうか、ロニーもまた安らかに逝ったのか、と。これは皮肉である。どういうことか。

神とは何か、悪とは何かと問い続けてきた反逆の絶叫詩人ですらも、安らか(peace)ならざる死を迎えることができなかったことは、果たして幸か不幸か――いまそれを論じることは差し控えよう。

しかし、わたしが見逃せないのは、次のことである。ときに人は死者にたいして弔いの言葉として英語で"Rest in peace"と言うが、この言葉は元々はラテン語の表現で、"Requiescant in pace"と言われる。略せば共に"R.I.P."となるのは単なる偶然ではなく、英語のrestもpeaceも、そもそもはラテン語由来の言葉であり、"Requiescant in pace"を直訳すれば"Rest in peace"になるからである。

だが忘れるべきではないのは、この"Rest in peace"という祈りの言葉は、カトリック教徒が死者にたいして祈りを捧げるときに述べられるものである。恐らくこの表現は、キリスト教のどの宗派に属していても、総じてキリスト教の文化圏に育った人にとってはポピュラーな言い回しなのだろうと考えられ、それゆえあまり宗教的な意味合いを考えずに誰にたいしても使われる機会が多いのであろう。しかしキリスト教にあまり馴染みのない日本人までもが、この祈祷の言葉を、その宗教的な色彩を蔑ろにして軽々に口にすべきではない。そしてわたしは、"Rest in peace"がキリスト教的な祈りの言葉であるがゆえに、生前明確にキリスト教にたいして疑義を突きつけていたロニーその人にたいして、何も考えずに"R.I.P."と言ってのけてしまうのは、非常に違和感を感じる。

ウィキペディアを参考に、"Requiescant in pace"が現れる祈祷の言葉を、英語とドイツ語からの重訳ではあるが、日本語に訳してみよう。ここでわたしが2つの言語から訳さなければならないのは、各々のページでラテン語の原文が異なっているからである(但し異なっているからといって、わたしはラテン語が読めないので、これ以上のことは言えない)。

英語での祈りの言葉は、次の通りだ*3

「神の加護によって、彼の魂と、全ての身まかりし信徒たちの魂とが、安らかな眠りにつきますように
"May his soul and the souls of all the departed faithful by God's mercy rest in peace."

続いてドイツ語は、次の通り*4

「おお主よ、彼(彼女)に永遠の眠りをお与えください。そして永遠の光を彼(彼女)にお照らしください。彼(彼女)を安らかな眠りにおつかせください。アーメン」

"Ewige Ruhe schenke ihm (ihr), o Herr! / Und das ewige Licht leuchte ihm (ihr)! / Lasse ihn (sie) ruhen in Frieden. / Amen."

このように、2つの言語に現れる「安らかな眠り」(英語"Rest in peace"、ドイツ語"Ruhe in Frieden")は、神によってキリスト教徒(faithful)に与えられるものであると見なされていることに、異論はないであろう。

"R.I.P."は、そもそもは、取りも直さずキリスト教を信仰していた者にたいしての慰めの言葉だったはずである。それゆえに、ロニーのみならず、メロイックサインを高らかに突き上げ、神とその信者たちに挑戦状を叩きつけていた者たちの死に際して、"Rest in peace"と言ってpeaceful(安らか)な死を祈るのは、何やらひどく不作法な感じがしてやまないのだ――もっとも、ロニーが亡くなる前の数日間について報告したギーザー・バトラーによれば*5、彼が亡くなる数時間前に彼の病室を「チャプランchaplain」、つまりこの場合、病院付きのキリスト教聖職者が訪れている。ということは、ロニーはキリスト教、ないしはキリスト教が支配する(西欧の)社会と秩序にたいしてクエスチョンを抱いていたのは間違いないとしても、ラディカルにキリスト教から切れていたわけではないということなのだろう。あるいは日本において、故人やその家族が極めて宗教的信仰心の薄い人たちだったとしても、葬儀の際には何となく仏式か神式を法要を行ってしまう(わたしの家族は典型的にそうだ)感覚と似ているのかもしれない。

とにかく、約50年にわたってロックし続けてきた人が、死んだらあの世じゃ安らかに眠らなけりゃならないというのは、ロッカーやメタラーには通じない道理であろう。同じ"R.I.P."と言うにしても、"Rock it powerfully"と叫びたい――あの世でもロックし続けてほしいという願いである。こちらのほうがロニーにはしっくり来るだろう。


やれやれ、前置きが長くなってしまった……が、続きは後日加筆する。

余談だが、このブログに掲載するための書きかけの記事を4本抱えている。

1.学歴と経歴を詐称し、剽窃によって博士論文を書き上げたトルコ人にたいして、東大が博士号を授与してしまった事件について。引用込みで、3600字ほど書いてある。

2.ドイツのギムナジウムで教育実習を受けていた教育公務員候補生が、グロテスクなデスメタルバンドをやっているという理由で、解雇された事件。ドイツ語の新聞記事の翻訳を含めて、9000字弱書いた。

3.ロニー追悼記事(この記事)。公開している部分だけでも3000字を越えている。

4.友人の結婚式に出席して考えたこと(まだ1文字も書いていない)

正直、途方に暮れている。

*1:http://www.barks.jp/news/?id=1000061117(10年5月24日)

*2:http://www.ronniejamesdio.com/news.asp(10年5月22日確認。強調は引用者。)

*3:http://en.wikipedia.org/wiki/Requiescat_in_pace(10年5月24日確認

*4:http://de.wikipedia.org/wiki/Ruhe_in_Frieden(10年5月24日確認

*5:http://www.geezerbutler.com/archives/367(10年5月24日確認)