Tokyo Flaneur: (1)With Thinking

*1

午後5時、六本木での「労働」のあと、わたしは新宿三丁目へ行かなければならなかった。一番早いのは、六本木一丁目駅から南北線に乗り、四ツ谷駅丸ノ内線に乗り換え、新宿三丁目駅で降りるルートである。しかし当地からは丸ノ内線国会議事堂前駅も、赤坂見附駅も徒歩圏内である。乗換の面倒を考えると、それらの駅のどちらかへ歩いて行っても、所要時間は大してかからないのではないかと思った。また、都心のど真ん中を散歩する機会もそうないだろうと考え、新宿三丁目駅寄りである赤坂見附駅まで歩き、そこから丸ノ内線に乗ることにした。

*2

溜池山王駅(A)から、外堀通り赤坂見附駅に向けて歩を進める。NTTドコモ本社ほかが入居する超高層の山王パークタワー、山王日枝神社中国銀行(Bank of Chinaのほう)の東京支店を通り過ぎた。土曜日のせいか、典型的な官公庁とオフィスビルが立ち並ぶ当地一帯は、人通りが多いとは言えなかった。山王パークタワーの前に、緑色の車体に窓には防護用の金網が取り付けられた、警察機動隊の特殊車輌(バス型)が停車していた。クルマの内部は、カーテンに閉ざされて窺い知ることはできなかった。前述の通り当地は、国政の中枢なので、鬱陶しいまでに警察官が警護に立っている。

赤坂見附駅が見えてくる。同駅直上のベルビー赤坂が目印である。かつて04年のわたしの誕生日に、当時の友人に連れられてこの駅近くのアンナミラーズへ来たことを思い出した――が、同店舗も営業赤字のため閉店になったようだ。時が過ぎるのは非常に早いものである。

駅の降り口前に掲げられた交通標識を見ると、四ッ谷駅まで1.3キロとある。四ツ谷からならば、わたしが持っているJRの定期券だと、新宿駅には行ける。それに、こんな都心のど真ん中を散策する機会などそうそうないではないか。というわけで、結局、わたしは赤坂見附を越えて、四谷までまさしく自分の足で行くことにした。

四谷へも、外堀通りに添って歩いて行くだけなのだが、青山通りとの交差点(B)から、永田町方面から伸びてきた首都高4号新宿線の高架下を歩くことになる。ここから四谷方面に向けて坂になっており、紀伊国坂と呼ばれている。この交差点で一度道を間違え、弁慶橋を渡ってしまった。手持ちの地図はなかったが、交差点の手前で見た地図には、お堀の西側に添って外堀通りが伸びていたことを思い出し、慌てて引き返した。高速道路の下、周りはわりと高層の建物が多く、日も暮れかかっていたので、紀伊国坂は薄暗かった。赤坂御用地に差し掛かってくると、ここは本当に東京のど真ん中か疑いたくなるほど、閑静な佇まいであった。若葉東公園(C)のギリシア調の庭園を目の当たりにしたときには、別の街にワープしたかのような感覚に陥った。

丸ノ内線の四ッ谷地上駅(D)が見えてきたところで、わたしは現実感を取り戻した。前日(5月29日)にわたしは日比谷公園で開かれていたオクトーバー・フェスト(ドイツビール祭)に行くために、この駅で中央線を降りて、丸ノ内線に乗り換えていた。しかしながら、地下鉄に乗っていると、こうして歩いて見なければ、路線の直上の地上の様子なんか全くわからないものである。

歩いた距離は、線路長だと六本木一丁目から四ツ谷まで、3.5キロ。約1時間の散策だった。今わたしの両太腿が何となく痛いのも、日頃の運動不足のせいで、この散策で疲弊したためだろうか――だとしたら、まさしく有意義な散策であった。

そう言えば、前日そのオクトーバー・フェストに一緒に行った院生仲間に、わたしの散策趣味を語ったところ、「きみは無駄な時間の過ごしかたが多すぎやしないか」と言われた。そんなことはない。わたしの散歩は、思索をする上で非常に重要な時間である。彼にもそう抗弁しておいた。


新宿駅東口のモア4番街に、奇妙で不気味な路上パフォーマーがいた。顔からスキンヘッドの頭頂部まで真っ白に塗りたくり、太鼓を打ち鳴らしながら、何事かを唄っているか、それともうめいているかしているのである。映画「犬神家の一族」の佐清のような風体である。

そしてこの佐清は、そしてやおらに松明に火を点けたかと思うと、それを手に持って踊りだした……のだけれども、ちょっと踊ったらすぐに慌てて火を消した。多分警察に来られると面倒だからだろう。見た目は狂人のようなのだが、松明を消す際の「無様さ」を見るにつけ、単なるパフォーマーかと興味がなくなった。わたしは新宿書店で早売りのジャンプを買って帰宅の途についた。


(09年6月3日追記)去る3月14日(土)、仙台で経済学の大学院生をやっている高校からの旧友Wが、上京した。4、5年以上ぶりの再会である。このとき待ち合わせをしたのが、彼たっての希望で六本木の国立新美術館だったので、「ギロッポン」つながりということで、このときのことも簡単に思い起こしておこう。

わたしたちは池袋で高校の同級生たちと酒宴を予定していたので、六本木から池袋へ移動しなければならなかった。しかしわたしの同行は田舎者、もとい久々に東京にやって来た人間なので、ちょっとは六本木を見物してみようということになった。

歩いたルートは次の通り。国立新美術館を正門、政策研究大学院大学の脇から出て、六本木ヒルズへ。そこでは「クモ」のオブジェを眺め、記念写真を撮影してから、けやき坂を下った。そのあとは南北線麻布十番駅へと向かい、永田町か、市ヶ谷か、飯田橋のどこかで有楽町線に乗り換えて池袋へと向かったはずである(この辺、あまり記憶にない)。彼はこのとき東北仕様のスパイクつきのブーツか何かを履いていたと思うが、東京に不慣れな人に、短からぬ距離を歩かせてしまったことは、ちょっと申し訳なく感じている。

んで、そのとき六本木ヒルズで撮影したのが、これである。

彼には「ブログに載せるな!」と厳命されていたのだが、もう時効だろう(笑)。「クモ」の前で撮影したはずなのだが、既に日は落ちていたので、全く写っていない。東京タワーだけが遠くに薄ぼんやりと見えるのみである。*3

地図を見ればわかると思うが、わたしの職場の最寄駅である六本木一丁目駅は、わたしたちがうろうろした辺りとかなり近い。「春からこの辺りで『アルバイト』するんだゼ」とわたしは彼に話していた。

*1:"Tokyo Flaneur"シリーズ化に伴い、タイトル一部改題(09年06月09日)。

*2:09年6月3日追加

*3:都合により画像は削除された(09年6月29日)。