The Awesome founder of europian Heavy Metal!

Hell Yeah: Awesome Foursome [DVD] [Import]

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「イケてる4人組」

ドイツ出身のバンドGAMMA RAYの、2006年5月にカナダはモントリオールで収録された2枚組ライヴDVDである。わたしをヨーロビアン・メタルとドイツ語の世界に引き入れたそもそもの原因は、彼らである。彼らのライヴをわたしは2度観に行っているが、ライヴDVDを手に入れたのはこれが初めてだ――そもそも彼らにライヴDVDは2枚しかなく、そのうち1枚はVHSで一度出されたもののDVD化である。

ライヴのセットリストは、わたしが05年12月に観た彼らのライヴのそれと概ね一緒である。GAMMA RAY(というかカイ・ハンゼン〔Kai Hansen〕)くらいのキャリアになると「どうしてあの曲はやらないんだ?」という苦情は常々寄せられると思う――だからこそ、ウェブサイト上のアンケートから曲目を選定した"SKELETONS IN THE CLOSET"ツアーをやったのだろうが――が、現在のラインナップなってからリリースされたCDに収録された楽曲の中では、ベストなものだろう。事実、ベスト盤である『BLAST FROM THE PAST』(00年)のディスク2を見ると、"Anywhere in the galaxy"と"Armageddon"以外は全てこのライヴで演奏されている。

さて、わたしは彼らのライヴを観ているだけあって、彼らはライヴが上手いことはすでに承服済みだったし、その意味での感慨はあまりなかった。ただ、ついでに言えば、ハンゼンは悪評高いあの「魔女のような唄声」を2時間後の終演まで衰えさせることなく維持していたのは、相変わらずさすがだと思う――彼はすでに46歳だ。

2枚目には、日本で行われたハンゼンとヘンニョ・リヒター(Henjo Richter)によるアンプラグド・ライヴの様子が収録されていた。いつものメタル・ライヴとは異なり、椅子に座りながらアコースティック・ギターで持ち歌をアコースティック・ヴァージョンで弾き語るというものである。これを聴くと、高音域の歌唱では評判の悪いハンゼンも、中低音域ではかなりの美声を持っていることがわかる。余談だが、このとき日本のファンへのサーヴィスとして『荒城の月』も演奏され、彼はその中低音を響かせていたはずなのだが、このDVDには収録されていない!(同じくドイツ出身のSCORPIONSが79年のライヴ盤で唄って以来、ドイツ人には馴染み深いものとなったようだ)それは恐らく、このDVDが洋盤だからだろう。

カイ・ハンゼン――恐るべきヨーロピアンメタルの開祖

時折、HELLOWEENにハンゼンとミヒャエル・キスケ(Michael Kiske)が残っていたら、このバンドはもっと成功したのではないかという嘆きの声を聞くことがある。しかし、わたしはそうは思わない。その2人と現在もバンドに残るミヒャエル・ヴァイカート(Michael Weikath)がいれば、このバンドは世界的にももっと成功したかもしれない。

しかしハンゼンはこのバンドを離れ、自身のバンドを結成し活動する傍ら、BLIND GURDIAN、HEAVEN'S GATE、IRON SAVIOR、HAMMERFALL、ANGRA、HEAVENLY、STORMWARRIORなどヨーロッパや南米のいわゆる「メロディック・スピード」メタルバンドをプロデュースしたり、それにゲスト参加するなどして、こうしたジャンルのメタルバンドの育成に力を注いできたし、影響を与えてきていることも間違いはない。 これが果たして、ハンゼンがHELLOWEENに縛られていたら、可能であっただろうか。

少なくともロックンロールやヘヴィメタルの分野に限って言えば、SCORPIONSやACCEPTのような少数の例を除けば、1980年代の前半までは、アメリカやイギリス以外の欧米のバンドが本国に拠点を置きながら、ロックやメタルのファンに対して世界的に認知されることは難しかった。非欧米出身のバンドやプレイヤーが世界に打って出たい場合は、イングヴェイ・マルムスティーンYngwie Malmsteenスウェーデン)やLOUDNESS(日本)のように、アメリカやイギリスに渡らなければならなかった。

そうしたメタルとロックの世界的な事情から、少なくともピュアメタル、パワーメタル、あるいは前述のメロディック・スピード・メタルのジャンルに関して言えば、それらの中心地をヨーロッパ、厳密に言えばドイツに持ってきたのはハンゼンといくつかの独レコード会社(SPV、Nuclear Blastなど)であることは間違いない。もちろん他のバンドの努力を無視するわけではないが、この点に関するハンゼン一人の功績は比類なく大きい。

GAMMA RAYは、何だかんだ言っても、結局はカイ・ハンゼン・バンドである。バンドの初期はともかく、現在はハンゼン自身がヴォーカルを担当しているし、作曲もそのほとんどをハンゼンが担当している。彼自身が望むかどうかはともかくとして、このバンドは彼さえいれば、あとはレコーディングやライヴのたびに凄腕の客演を呼んでくれさえすれば、成立するバンドである。だからこそ彼は、極めて自由度の高い活動を行うことができたのであろう。

ヘヴィメタルというジャンルは、世界的な広がりを持ってはいるが、しかし一国一国における市場は比較的小さいので、それで食っていこうとするバンドは、世界中を回ってツアーしたりプロモーションしたりすることを余儀なくされる。また一度聴けばわかるように、とりわけヴォーカルとドラマーはスポーツ選手のように肉体を酷使する音楽ジャンルでもある。つまり、このジャンルは、体力勝負の音楽なのである。しかし70年代から活躍するメタル・ヴォーカリストロニー・ジェイムス・ディオは、67歳にして初めて自身の属するバンドHEAVEN AND HELLとともに全米チャート8位を獲得した*1ように、たとえヴォーカリストであっても、歳をとっても息長くやり続けられる音楽である。ハンゼンにも、頭髪がツルっとハゲきってしまったあとも、「ヨーロピアンメタルの開祖」として第一線で頑張ってもらいたい。

余談

ところで、このDVDはもっと早く出されるはずだったのだが、彼らのレコード会社の移籍に絡んで発表が遅れたようである。ついでに言えば、日本の配給元であるビクターは、同じライヴのCDはリリースしたが、このDVDの日本語版は発売未定を貫いている。従ってわたしが手に入れたのは、先にも述べたように、字幕なしの洋盤である。わたしが発売後6か月も経ってからこのDVDを、しかも海外盤を手に入れなければならなかったのも、本当は日本語の字幕入りが欲しかったからである。彼らの英語によるMCは5、6割しかわからんし、2枚目で彼らが部分的に喋っているドイツ語はもうほとんどわからん。

しかし、すでに最新作『LAND OF THE FREE II』(07年)が出ているというのに、リリース時期の延期のせいで、それに収録された楽曲が演奏されていないなど、ライヴDVDとしてはやや鮮度が古いということは、言えるかもしれない。

それならば、CDにはボーナストラックとして最新作の楽曲のライヴ演奏を収録したのと同様に、DVDにも2枚目にでも最新作の楽曲をライヴで演奏する様子を撮影して収録してほしかった。発表が1年も遅れたのだから、それくらいのサーヴィスはしてほしいものである。

おまけ

(09年5月26日追記)ディスク1のエンドロールを見ていくと、最後のほう、"This Space For Rent"以下の部分で次のように書かれている。「なんのこっちゃ?」というような内容である。

The persons and events in this film are fictitious.
Any similarity to actual persons or events is unintentional.

This motion picture is protected under the laws of the seven dwarfs.
Unauthorized duplication or exhibition will result in a poisoned apple, worldwide chaos, no sex and small penis.
(guess our keyboarder did some illegal copies, ehe)

Alcohol and cigarettes can cause to lead a dissipated life.
If naked dwarfs singing and dancing around your bed at night,
you're a member of a boygroup or you believe in television.
you should call a doctor.

この映画の登場人物と出来事はフィクションです。
実在の人物や出来事とは関係ありません。

この映画は7人のドワーフの法の元に保護されています。
許可されていない複製や公開は、毒リンゴ、世界的な混沌の元です。
セックスもできなくなるし、チ●コも小さくなるよ。
(もしかすると俺たちのキーボード奏者は、違法なコピーをやっているかもしれないけれど。エヘ)

飲酒や喫煙は、不埒な生活に繋がります。
もし夜あなたのベッドの周りを裸のドワーフたちが唄い踊っていたら、
あなたはボーイグループの一員か、あるいはテレビの観過ぎです。
医者に看てもらったほうがいいね。

ほかにもジョークっぽい記述はあったのだが、あからさまに冗談だとわかったのは、この部分である。そもそもこのDVDは、サブタイトルが"And the finnish keyboarder who didn't want to wear his donald duck costume."(〔イケてる4人組〕と、自分のドナルド・ダックの衣装を着たがらなかったフィンランド人キーボード奏者)という塩梅である。ちなみにこのライヴにゲスト参加しているキーボード奏者エエロ・カウコミエス(Eero Kaukomies)は本当にフィンランド人で、本国ではGamma RayのカヴァーバンドGUARDIANS OF MANKIND(GAMMA RAYに同名の楽曲がある) で活動している*2。カヴァーバンドから本物のバンドに誘われたということは、リッパー・オーウェンズ(Ripper Owens)にも似た出世と言ってもいいのではないかしら(しかもタイトルでもエンドロールでもイジってもらってるし。笑)。

 * * * * * 

そろそろ大学とアルバイト(労働)が忙しくなってきたので、少なくとも6月いっぱいまで、また更新頻度を落とします……が、わたしは暢気にヘヴィメタルは聴き続けていることでしょう。