ジロリアン

大学院を修了して就職するため引っ越す友人Eから、ボロい自転車を1000円で引き取った。このEが「ラーメンを食いに行こう」と言うので、後輩Kを巻き込んで院生3人野郎ばかりママチャリに跨って、夜の多摩地を疾駆した。チョー寒かった。

二郎とは、私は今まで高田馬場店を皮切りに、神田神保町、松戸、池袋、歌舞伎町、武蔵小金井の各店と転戦してきた。大学2年生だった04年に高田馬場で初めて二郎を食わされて以来、わたしは二郎にハマッたが、それは同時に、わたしのラーメニストとしての目覚めでもある。今回の相手は、二郎の中でも新顔の立川店である。

午後8時ごろ、わたしたちが到着したとき、店外には先に5人ほど並んでいた。中にも数名並んでいた。カウンターだけ12席で、3人が並んで座るはなかなか大変だったが、それでも30分ほどでわたしたちは座席を確保できた。

先だってわたしは、Eに自転車を譲ってもらう話をしたときに、彼が「1000円でいい」というので、思わずわたしは「なら今度メシも奢るワ」と口走ってしまった。なので今回わたしはEにラーメンを奢る羽目になってしまった。しかもEは、ただの大ラーメン750円(ちなみに小ラーメンは650円)ではなく、チャーシューを余計にトッピングした大ぶた増し850円を注文しやがった。Kも大ぶた増しにしてしまい、しみったれていると思われるのも癪なので、結局わたしも大ぶた増しにしてしまった。

カウンターの向こうで調理する店主が「ニンニク入れますか?」と訊いてくるので、わたしは「ヤサイマシマシ、ニンニク、カラメ、トウガラシ」とフシギな呪文を唱えた。そうすると、店主は「ヤサイマシマシ、ってことは……」云々と呟くや否や、わたしに野菜どか盛りのラーメンを突き出した。歴戦のわたしもさすがに驚いた。

二郎といえば、わたしは高田馬場店によく行くのだが、わたしはつねづね「馬場は二郎でなく三郎になった」と言っている。実質的な値上げはするわ*1、一時期は茹でた刻みニンニクではなく(多分出来合いの)味付けニンニクを使うわ(今年1月15日に行ったときは、茹でニンニクだったが)、例の呪文を聞き逃してトウガラシを入れずによこすわで、昔と比べて全体的に質が落ちたからである。

うずたかく積まれた野菜を見るや、久しぶりに二郎に再会した気がした。野菜の量があまりにも多すぎてこぼさずに麺へと辿り着くのが不可能に思われたので、EとKにお裾分けしてようやく麺にありつくことができた。

←野菜をお裾分けしたあと、ちょっと食っちゃってからブログ用に画像を撮影することを思い出した。食いかけで失礼。

わたし自身は三田本店の二郎を食したことはないが、立川の二郎も、いかにも二郎という味である。少なくとも最近の高田馬場店よりはうまい。若者ばかりではなく、わたしたちの前には中年と思しき夫婦が食していたので、女性や年配者にも食べやすい味である。何よりも「ヤサイマシマシ」で積み上げられた野菜の量に、わたしは心を捕まれたのである。二郎ならこうでなくっちゃ。

わたしたちの中で一番最初に食べ終えたのはKである。割と痩せ型のKは「満腹中枢が刺激される前に食べきらないと、完食できなくなる」と言ってむしゃむしゃかぶりつき、店内が混んでいたこともあって、早々に店を出た。東京のラーメンを食い修めるはずのEは、人のカネで食っているにもかかわらず、完全に二郎にやられてしまい、一口二口残す結果となった。Eはわたしより1歳年上(学部時代に1年留学したので、学部卒業に5年かかった)だが、どうやら25歳にもなると二郎が食えなくなってくるらしい。あな恐ろしや。ちなみにわたしは、腹9分目で心地よい満腹感を得て店を出た。

二郎を出たあと、わたしたちは細い通りの国立市街地を走り抜けた。譲り受けたチャリンコはチェーンが緩みきっており、カヴァーに触れてカチャコンカチャコン言っている。ブレーキも油が足りないのか、使うたびにキーキー異音を発する。1000円(+ラーメン850円)は高かったのではないかと思い始めていた。ボロチャリから発せられる不細工な雑音が、シャレオツな国立に響き渡るたび、わたしは首を竦めた。

わたしたちは国立駅前のシャレオツな喫茶店に入った。修士を出たあと就職を考えているKは、これから就職をするEの「修活指南」を受けていた。わたしには縁のない話だ、と思っておきたい。

17日から新入社員研修が始まるというEとラーメンを食するのは、これが最後になるだろう。あの大学院の中で、他人嫌いのわたしが珍しく一番親しく付き合ったのは、このEである。

*1:08年における二郎高田馬場店の値上げについては、http://ninnikuyasai.at.infoseek.co.jp/page017.htmlを参照(09年2月7日確認)。