彼我の国を見習え

asahi.com『レビストロース氏100歳 サルコジ大統領が祝福』*1

2008年11月29日15時6分

【パリ=国末憲人】20世紀を代表する思想家で文化人類学者のクロード・レビストロース氏が28日、100歳を迎えた。地元フランスのサルコジ大統領は同日、同氏を訪問して敬意を表し、様々な記念行事も催された。

同氏はパリ在住。メディアにはほとんど出ないが、健康で、旅行もする。頭脳の明敏さは相変わらずという。大統領府によると、現代社会の今後についてサルコジ大統領と意見を交わしたという。

仏政府はこの日、仏で活動する人文社会科学者を対象とする「レビストロース賞」を創設すると表明。同氏の中南米などでの収集品を多く所蔵するパリの国立ケ・ブランリ美術館も同日、同氏の作品の朗読など記念行事を展開。仏国立図書館は同氏の原稿を展示し、ルモンド紙は4ページの特集を掲載した。

レビストロース氏は構造主義の父といわれ、55年に発表した「悲しき熱帯」が人文社会科学全般に大きな影響を与えた。日本文化の愛好者としても知られる。

アドルノ(Theodor W. Adorno, 1903-1969)やホルクハイマー(Max Horkheimer, 1895-1973)らが活躍したフランクフルト社会研究所には、いま専任の研究員は所長のアクセル・ホネット(Axel Honneth, 1949-)しかいないらしく*2、欧米でも人文科学の価値は低く見られているという話を聞いていたが、それでもやはり欧州では哲学や文学の伝統は息づいているようだ。

日本では、その時々の内閣総理大臣が東大教授であれ、京大教授であれ、どこの大学教授であれ、哲学(研究)者や文学(研究)者に話を聞くという話は聞いたことがない――種々の公聴会は別とするが、そういう公聴会にしても、哲学や文学畑の人間は冷遇されている気がする。まあ、日本の大学は大体どこも、人文科学的な教養を「パンキョー」などと蔑称して軽視していることからして、哲学や文学は日本では肩身が狭くてしょうがない。

それにしても、私は数年前からレヴィ=ストロース(Claude Lévi-Strauss, 1908-)の著作を見るたびに、いつ著者略歴に没年が書き込まれるのかとどきどきしていたが、御大はとうとう百寿の大台に乗ってしまわれるとは、私には思いもよらなかった。

レヴィ=ストロースは1908年生まれだが、上に挙げたアドルノ1903年生)や私が研究しているハンナ・アーレント(Hannah Arendt, 1906-1975)とほぼ同世代ということには、ますます驚かされる。かつての論争相手はサルトル(Jean-Paul Sartre, 1905-1980)であり、隔世の感は禁じえない。彼の教え子ブルデュー(Pierre Bourdieu, 1930-2002)や、彼を批判したデリダJacques Derrida, 1930-2004)ほうが先に亡くなってしまった。

ところで朝日新聞の記者は散々「レビストロース」氏と書いているが、学術や出版の業界では「レヴィ=ストロース」という表記が一般的なはずであり、彼の訳書でもそのように印刷されている。まあ朝日新聞の記者も、文学や哲学の教養に乏しいということなんだろう。

*1:http://www.asahi.com/international/update/1129/TKY200811290053.html(08年11月30日)

*2:と言っても、同所のウェブサイトを見ると色々と人名が連ねられているんだが、聞いたところではホネット氏以外は非常勤や客員の研究員なのだそうだが、ほんまかいな。http://www.ifs.uni-frankfurt.de/institut/leitung.htm(08年11月30日)