No higher than Metal!

RAGE Live (Jul. 6th, '08. Sun.) at Shibuya O-East, Tokyo, Japan

  1. CARVED IN STONE
  2. DROP DEAD!
  3. UNDER CONTROL
  4. SOUNDCHASER
  5. DAYS OF DECEMBER
  6. REFUGE
  7. LORD OF THE FLIES
  8. DIES IRAE
  9. BEAUTY
  10. ONE MORE TIME
  11. LOST IN THE VOID
  12. NO REGRETS
  13. VICTOR'S GUITAR SOLO (Instrumental)
  14. UNITY (Instrumental)
  15. DOWN
  16. SOUL SURVIVER
  17. SET THIS WORLD ON FIRE
  18. MEDLEY I: SENT BY THE DEVIL, BLACK IN MIND, SOLITARY MAN
  19. ENOUGH IS ENOUGH (Encore I)
  20. BABY I'M YOUR NIGHTMARE (Encore I)
  21. 満ちし月 (Japanese version of FULLMOON) (Encore II)
  22. MEDLEY II: LONG HARD ROAD, HIGHER THAN THE SKY, DON'T FEAR THE WINTER, LONG HARD ROAD (Encore II)
  • Note
    • No.1, 2, 7, 11, 22 (LONG HARD ROAD) from the latest album CARVED IN STONE (2008).
    • No.3, 22 (HIGHER THAN THE SKY) from the album END OF ALL DAYS (1996).
    • No.4 from the album SOUNDCHASER (2003).
    • No.5 from the album XIII (Thirteen) (1998).
    • No.6 from the album THE MISSING LINK (1993).
    • No.8, 14, 15, 17 from the album UNITY (2002).
    • No.9, 10, 12, 16, 21 from the album SPEAK OF THE DEAD (2006).
    • No.18 (SENT BY THE DEVIL, BLACK IN MIND) from the Album BLACK IN MIND (1995).
    • No.18 (SOLITARY MAN), 19, 20 from the album TRAPPED! (1992).
    • No.22 (DON'T FEAR THE WINTER) from the album PERFECT MAN (1988) or self-covered version from WELCOME TO THE OTHER SIDE (2001).
  • RAGE are
    • Peter "Peavy" Wagner (Lead Vocal and Bass Guitar)
    • Victor Smolski (Guitar and Backing Vocal)
    • Andre Hilgers (Drums)

ドイツ・ハンブルク産のRAGEというヘヴィメタルバンドが、AVENGERという前身を経て、1983年の結成、86年の改名からこんにちに至るまでには、彼らは多くの変化を経験してきた。もしかすると「変化」という言葉では片付けられないかもしれない。ただ唯一の中心人物が、単に同じ名前のバンドを率いているだけで、同じ名前であるからといって、25年前のこのバンドと現在のこのバンドとを、同一のものと見なせるかどうかは議論の余地がある。

25年前の楽曲と現在の楽曲とが、同じバンドによるものだと思えないのは、事実である。けれども、25年前の楽曲も、現在の楽曲も、聴けば必ずRAGEのものだとわかるのもまた、事実である。RAGEというバンドと、その創始者であり中心人物であるピーヴィ・ヴァーグナー(Peter "Peavy" Wagner、ヴォーカル、ベース、1964-)の歴史は、進化の歴史と呼んでも過言ではない。長く支持されるバンドは、従来と同じことをやりながら、しかしちょっとずつ新しいことに挑戦し続けていくものであることが多く、その様は単なる「変化」ではなく「進化」なのである。

RAGEの来歴は、同じハンブルク出身のHELLOWEEN1984-)やGAMMA RAY(1990-)とは極めて対照的である。HELLOWEENがカイ・ハンゼン(Kai Hansen、1963-、ヴォーカル、ギター)やミヒャエル・ヴァイカート(Michael Weikath、1962-、ギター)、ミヒャエル・キスケ(Michael Kiske、1968-、ヴォーカル)といったメタルヒーローを得て、ジャーマンメタルシーンを牽引していたとき、RAGEは「B級くさい」「ヴォーカルが“ニワトリを絞めたような声”だ*1」などと冷遇されていた。

しかしそうした批判や逆風も、ヴァーグナーの意には介さなかった。二度にわたるヴァーグナー以外のメンバー総入れ替えのたびに、RAGEは作風を新たにし、確実にキャリアを積み上げていった。特記しておくべきことは、このバンドはHELLOWEENと同時期に現れたので、JUDAS PRIEST(1969-、イギリス)に端を発し、HELLOWEENによって洗練されたツインギター編成によるメロディックスピードメタルの影響を受けないどころか、明らかに一線を画していたということである。流麗なツインギターのソロプレイが流行りだしていた頃、それまでツインギターを含めた4人編成だった彼らは逆に、ギター、ベース、ドラム各一人のスリーピース編成(そのうち一人以上がヴォーカル兼任)に変わった(1988年)。更には、1992年の『TRAPPED!』でヴァーグナーは「ニワトリを絞めた声」と評されたハイトーン・ヴォーカルを廃し、低音域から中音域主体の歌唱に切り替えたことも、それ以降のバンドの活躍を鑑みれば、影響は極めて大きい――「もうハイトーンは飽きたんだよね*2」という彼の弁が、本意かどうかはわからないが。HELLOWEENのキスケがハイトーンを売りにして人気を博していたことを考えると、そのこともまた対照的である。

RAGEにおけるもう一つの転機は、ベラルーシ生まれのロシア人ギタリスト、ヴィクター・スモールスキ(Victor Smolski、1969-)の加入である。RAGEは1994年以来再びツインギターの4人編成に戻っていたが、1999年のアルバム『GHOSTS』製作中にヴァーグナー以外の3人が突如一斉に脱退、新バンドを結成するという事態に陥る。こうした“クーデター”に対し、ヴァーグナーはすぐさまスモールスキと、イングヴェイ・マルムスティーンYngwie Malmsteen、1963-、ギター、アメリカ)のバンドでの活躍(1993年)が出世のきっかけとなったアメリカ人渡り鳥ドラマー、マイク・テラーナ(Mike Terrana、1960-)の加入を決め、『GHOSTS』を完成させたと同時に、初めて高く評価されたときと同じスリーピース編成に戻った。『GHOSTS』の後に続く『WELCOME TO THE OTHER SIDE』(2001年)のライナーノーツ(p.5)に音楽評論家の和田誠は「やはり、RAGEにはトリオが似合う」と断言している。

スモールスキの加入により、今までおよそ全ての楽曲を単独か共同で作曲してきたヴァーグナーは、その仕事をスモールスキと分担することになった(但し作詞は依然としてほとんど全てがヴァーグナーによる)。クラシック音楽の作曲家ドミトリー・スモールスキ(Dmitry Smolski、1937-)を父に持つスモールスキは音楽の素養に長け、オーケストラを導入した『LINGUA MORTIS』(1996年)以来クラシカルな音楽に関心があったヴァーグナーからは「天才だ」と評価されている(ヴァーグナー自身も音楽一家に生まれているらしい)。彼の加入以降の、とりわけ『UNITY』(2002年)以降のアルバムは、作曲面でも演奏面でもかつてのB級臭さを払拭した高品質な楽曲群を聴かせながら、しかしヴァーグナーの唄う、ライヴではオーディエンスにとっても熱唱しやすく煽情的なヴォーカル・メロディーに(とりわけ昔からのファンにとっては、良い意味で)かつての面影を漂わせている。

二度の大改革を乗り切ってバンドを存続させてきたヴァーグナーはまさしく「信念の番人 Defender of the faith」であるが、裏を返せば相当に我の強い人物であることは間違いがない。そのような人物が長年中心にあり、むしろ彼自身のソロバンドとでも呼んで差し支えなかったRAGEに加わり、もはやなくてはならないもう一人の“バンドの顔”となったスモールスキの功績は筆舌に尽くしがたい。結局のところ、このような芸術化肌が集まってヘヴィメタルバンドを運営する場合、その最小単位であるギター、ベース、ドラム各一人ずつのスリーピースが限界で、それ以上人が増えると自己崩壊を起こしてしまうのだろう。“音の厚み”を要求されるヘヴィメタルにおいては通例、ギター2人あるいはギター1人にキーボード1人の5人編成または4人編成(その場合誰かがヴォーカル兼任)をとるバンドがほとんどである――IRON MAIDEN(1980-、イギリス)なんてギター3人を含む6人編成だし、DRAGON FORCE(2003-、イギリス他)はギター2人にキーボード1人の6人だ。その意味で、RAGEはヘヴィメタルバンドのある種の“限界”、そしてそれゆえの“究極の形”を示している(以下、続く)。

*1:http://members.at.infoseek.co.jp/enid01/other/index.htmlのSEACRET IN A WEIRD WORLDのレヴューを参照(08年7月12日)。

*2:『TRAPPED!』日本盤のブックレットにおけるヴァーグナー自身のライナーノーツ、p.15より。