「流行語」から2007年を振り返る

一発ギャグ「そんなの関係ねぇ」が流行語トップテン入りを果たした小島よしおが、ビキニパンツ一丁というキャラクターで世間の認識を初めて受けた最初のきっかけは、仄聞によれば恐らく「笑いの金メダル」(テレビ朝日系、日曜20時。07年6月で終了)出演だろう。それも、知人の結婚式に出席するという設定でネタをやるコーナーであった記憶がある。

つまり彼は最初から「KY」、空気を読んでいなかった。結婚式というお題なのに、誰かの関係者であるというていでもなければ、そもそもドレスコードを無視しまくっている。彼のイニシャルがKojima Yoshio、すなわちK.Yであるという事実は偶然にしてはできすぎである。

「空気が読めない」ことを意味し、またそれを批難するときに使われる隠語が流行語になるということは、つまり世人は相互に“空気を読む”ことを要求している。なぜ我が国日本ではこんにち、事程斯様にうつ病が大流行しているのか、3万人を超える自殺者を生んでいるのか。その最たる理由の一つは恐らくこうだろう。みな人間関係の軋轢で、つまり“空気の読み合い”で疲弊してしまっているのだ。

“みんなの空気”に敏感になっている現代人たちに対して、医師ならではの洞察力でその病を見抜き、「鈍感力」という言葉でもって救いの手を差し伸べたのは、渡辺淳一である。だがこの言葉を初めて世人に与えたのは、小泉純一郎であった。確かに、この人物ほど豪胆=鈍感であった者は近年なかなかいない。あの、どう見ても小物に過ぎない世襲国会議員の総理大臣は、結局は“みんなの空気”に抗いきれず、「空気を読んで」しまって、体調不良を理由に首班の座を退くことになった――「私の内閣」の閣僚から自殺者を出してしまったこの山口県選出の総理大臣もうつ病で自殺すればよかったのだと、旧会津藩をその一部に有する福島県出身の私は、本気でそう思っている。

自民党をぶっ潰せ! 郵便局をぶっ潰せ! 抵抗勢力を斬り捨てろ!」と絶叫した小泉純一郎が、誰かからの批判の声に対し「そんなの関係ねぇ!」と一蹴したとしても、ありえない話ではなさそうに思えるのは、私だけではあるまい。今の日本はあの鈍感総理による「はい、オッパッピー!」の結果の産物なのである。

世人は誰しも、小島のように――あるいは小泉のように――、人間関係の軋轢も、“みんなの空気の読み合いも”、何もかも「そんなの関係ねぇ!」と吹き飛ばしたいのである。ちょっとだけ小賢しくなった下流のワーキング・プア・フリーターの兄ちゃんたちなら、「希望は戦争!」とのたまい、何もかもが一掃されることを願っているかもしれない。

但し、小島がテレビでもラジオでも観られ聴かれしなくなったとしても、それは世人が須らく「鈍感力」を身につけたことを意味しない。それはただ、「そんなの関係ねぇ!」という一つのギャグが飽きられただけに過ぎない。