Metal for the free, again
買ってからずっと聴きまくっている。購入後2週間は家でも電車の中でもこれしか聴いていなかった。
- アーティスト: Gamma Ray
- 出版社/メーカー: Steamhammer Us
- 発売日: 2008/01/15
- メディア: CD
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
- "Into The Storm" (Hansen) – 3:47
- "From The Ashes" (Hansen) – 5:26
- "Rising Again" (Hansen) – 0:27
- "To Mother Earth" (Hansen) – 5:11
- "Rain" (Richter) – 5:16
- "Leaving Hell" (Hansen) – 4:20
- "Empress" (Zimmermann) – 6:22
- "When The World" (Hansen) – 5:44
- "Opportunity" (Schlächter) – 7:14
- "Real World" (Hansen) – 5:42
- "Hear Me Calling" (Hansen) – 4:14
- "Insurrection" (Hansen) – 11:33
- "Blood Religion (Live in Montreal)" (Hansen) - 8:11 (Bonus Track for Japan)
「神盤って聞いてたから期待してたけど、思ったより・・・キラーチューンがなくない? *1」と言う奴は、自分の耳を疑って、さっさと耳鼻科医に行ったほうがいい。インストゥルメンタルの#3から#4に至る一連の流れは、悶絶ものである。#4は本作におけるハイライト、まさに“ネ申”である。この曲をキラーチューンと言わずして、何と言うか。
思えば、GAMMA RAYには「これ!」という代表曲がない。すなわち、毎回のライヴでも必ず演奏される曲がないのである。強いて言えば"I Want Out"くらいだが、言うまでもなくそれはHELLOWEEN(時代のカイ・ハンゼン)の曲である。ミヒャエル・キスケがヘヴィメタルから足を洗った現在、高音が出ないアンディ・デリス(HELLOWEENの現ヴォーカリスト)に唄われるくらいなら、ハンゼンに唄われたほうがこの曲の持ち味が出るとは私も思うけれども、現在のバンド名義で書かれた曲に代表曲がないというのも、寂しい限りである。その点で、#4は今後彼らの代表曲になりうる可能性がある*2
ついでに以下に、彼らのウェブサイト*3に掲載されていた仮の曲順を挙げる。これを見れば、#3と#4が元々は1、2曲目に来るはずだったことがわかるし、『HEADING FOR TOMORROW』、『NO WORLD ORDER』と同様に導入曲からアルバムを始めるつもりだったようだ*4
- RISING AGAIN 0:28
- TO MOTHER EARTH 5:09
- EMPRESS 6:22, RAIN 5:20
- INTO THE STORM 3:45
- WHEN THE WORLD 5:43
- FROM THE ASHES 5:30
- LEAVING HELL 4:20
- REAL WORLD 5:44
- HEAR ME CALLING 6:45
- OPPORTUNITY 7:15
- INSURRECTION 11:30
やむを得なかった「練り込み不足」
「なんか宣伝みたいに新譜最高ってのが居るけど、この内容なら前作かハロウィンの新譜を人に勧めるなぁ*5」と2ちゃんねらーは言うが、本作かHELLOWEENの『GAMBLING WITH THE DEVIL』のどちらを選ぶかはもはや好みの問題である。但し、前作『MAJESTIC』よりは明らかに出来がよいとは思うが。バンドにとっても前作が満足の行くものではなかったことは、前作が発表直後に行われ私も参戦した来日ライヴにおいても、前作からたった3曲しか選ばれなかったことからしても、明白である*6。
私は本作をかなり高く評価している。但し腑に落ちないのは、タイトルである。どうして旧作のパート2というような位置付けを本作に与えてしまったのか。本作のタイトルが初めてアナウンスされたのは、去年2006年の8月である*7。このときは誰もが、彼らが前年に同様に過去の名作の続編を作ったHELLOWEEN(『KEPPER OF THE SEVEN KEYS - THE LEGACY』)に影響されたと思ったし、従って彼らもファン同様に『LAND OF THE FREE』がバンドの最高傑作だと自己認識しているように見えたのである。
ところが、『LAND OF THE FREE』の歌詞世界が全ての曲で一貫して「自由」や「解放」、「救済」などをテーマとして描かれているのに対して、本作では必ずしもそうなってはいない。正確に言えば、彼ら、とりわけカイ・ハンゼンの歌詞世界は「見えざる巨悪」に対する抵抗のストーリーである場合が多いので、歌詞だけを見ていけば『LAND OF THE FREE』以降の作品は全て続編ということになってしまう。
ヘヴィメタルのレヴューサイト「METALGATE」は本作を聴いた感想を「穿った見方をすれば過去の素材流用に過ぎないという面もある。……そういった意味でもラフというか、練り込み不足という印象を受けてしまうのが残念*8」と書いている。本作のライナーノーツを執筆した伊藤政則の証言によれば、HELLOWEENとのカップリング・ツアーに間に合わせるために、本作の完成を急いだと言う。本作を『II』にした理由をハンゼンは「作っている時の俺たちのスピリットは、おおよそ変わらなかったから。当時、あれを作っていた時と感覚が似ていたんだ*9」と述べるが、それはただ、タイトルを熟慮する余裕もなかったから、仮タイトルをそのまま正式のものにするしかなかっただけなのではないだろうか。しかしそれでもなお、「作曲については凡百のフォロワーを寄せ付けないレベルにあることは言うまでもない。*10」
「円熟味」を評価せよ
そして旧作や「〔GAMMARAY〕自身が影響を受けたバンド*11」から引用してきたかのようなリフやメロディーについては、私は何も言うことがない。それらがいちいち気になる人間はこのバンドを、否、ヘヴィメタルを聴くのをやめてしまうがいい。
元WHITE ZOMBIEのロブ・ゾンビの「すべてを始めたのはブラック・サバスだし、今誰かがプレイしていることはほとんどすべて、すでにブラック・サバスがやったことだ。……今あるすべての素晴らしいリフを書いたのはやつらなんだ……。*12」という発言は示唆的である。リッチー・ブラックモアがヨハン・ゼバスティアン・バッハによる伝統的なコードを援用して作曲したことはファンにはよく知られている。つまり、少なくともヘヴィメタルは、先人の遺産を引き継いで新しいものを創造する音楽ジャンルなのである。むしろ“粗探し”されるほど聴きこまれているということは、いかに本作やGAMMARAYが愛されているかの証左であると、私は好意的に捉えたい。
確かに、二つの『KEEPER OF THE SEVEN KEYS』や『HEADING FOR TOMMOROW』の頃と比べて、年老いたカイ・ハンゼンにオリジナリティが失われてきていることは認めざるをえない。しかし、年齢のこともしかり、同じメンバーで長期的に音楽活動をしていくなかで、されでも新機軸を打ち出せというのも、現実的にはなかなか難しい要求であろう。
しかしながら、円熟を迎えた演奏技術などは、若かりし頃の彼らには有らずしてしかるべきものである。バンド最高傑作と称揚される『LAND OF THE FREE』は、どう考えても上手い演奏とは言い難いではないか。そののちすぐにベース転向を“せざるをえなかった元ギタリスト”、ディルク・シュレヒターや、間に合わせで見つけたようなリズム隊(トーマス・ナックとヤン・ルバッハ)に、そしてハンゼンのヴォーカルで、むしろ私には、どうしてこのラインナップで今なお「最高傑作」と称されるのか、却って不思議ではある。
だがしばしば酷評されるカイ・ハンゼンの歌唱も、よくよく聴けば10年前から衰えを見せないという点では、積極的に評価されるべきではないだろうか。その点ではイアン・ギラン(DEEP PURPLE)なんぞ話にならない。そして今のバンドの楽曲をラルフ・シーパース(現PRIMAL FEAR)に唄わせていたならば、このバンドは本当にJUDAS PRIESTのコピーバンドになってしまっていただろう。その意味では、シーパースの脱退は怪我の功名である。
日本における再評価のきっかけとして
日本におけるHELLOWEENとGAMMARAYとの扱いの落差には、私は憤りを感じている。GAMMARAYはもっと評価されてしかるべきである。無論それは日本人の耳がJ-POPやビジュアル系と呼ばれる歌謡曲に慣らされすぎていて、ヘヴィメタルを聴く感性を持つことができないというところに最大の理由があろう。確かにHELLOWEENは大衆に受けるポップさも兼ね備えてはいる。
とはいえ、こんにちのヨーロッパメタルの源流はカイ・ハンゼンとミヒャエル・ヴァイカート(HELLOWEEN)にある。しかし寡作のヴァイカートに比べてハンゼンの獅子奮迅ぶりは、目を見張るべきものがある。GAMMARAY再評価の兆しを、本作が握っていると私は確信しいるし、それを期待したいのである
*1:http://music8.2ch.net/test/read.cgi/hrhm/1195566521/26
*2:もっとも、大体どのアルバムにも「これぞ!」という一曲があるが、バンドの歴史においては「これぞ!」というアルバムがないと言わざるを得ないので、ライヴのたびにハイライトはそのときの最新アルバムから採られることは致し方ない。『LAND OF THE FREE』が名盤であることは私も認めるが、これは全体を通して聴かれたときにその真価を発揮するのであって、一曲一曲はちょっと弱い。強いて言えば表題曲"Land Of The Free"くらいか。
*3:http://www.gamma-ray.com/news.php?ID=85の2007年9月24日付を参照(07年12月2日)。
*4:但しそうすると、#2の歌詞の最後のフレーズである"Rising Again"をそのまま#3のタイトルにしたというカイ・ハンゼン自身のコメントと矛盾が生じる。http://www.jvcmusic.co.jp/gammaray/(07年12月2日)
*5:http://music8.2ch.net/test/read.cgi/hrhm/1195566521/38
*6:http://d.hatena.ne.jp/RYUSUKE/20051204におけるセットリストのうち、#3#、4#、#5が前作収録の曲。
*7:http://www.gamma-ray.com/news.php?ID=85の2006年8月7日付を参照(07年12月2日)。
*8:http://www.metalgate.jp/R_gammaray.htm(07年12月08日)
*9:http://www.jvcmusic.co.jp/gammaray/(07年12月08日)
*10:http://www.jvcmusic.co.jp/gammaray/(07年12月08日)
*12:BLACK SABBATH『REUNION』(ソニー、1997年)付属のリーフレットより。