日本人の病――不信と、無責任と、「祭り」

nikkansports.com『星野奈津子が不適切表現で1年間活動停止』

ドラマ「1リットルの涙」「時効警察」などに出演していた女優星野奈津子(20)が、自身の公式ブログで不適切な表現を書き込んだとして、1年間の活動停止処分を受けていたことが21日、分かった。所属事務所などによると、星野は日記の中で、香川県坂出市のパート従業員三浦啓子さん(58)と孫の山下茜ちゃん(5)彩菜ちゃん(3)姉妹が行方不明になっている事件について、犯人を特定するかのような書き込みをした。所属事務所のスタッフのチェックで不適切な表現が発覚。即座に内容を削除した上で星野の謝罪文を掲載し「大変不適切な発言をしてしまいましたことを深く反省しております。また当関係者の皆さまには、大変不快な思いをさせてしまいましたことを心よりおわび申し上げます。このことを真摯(しんし)に受け止め、芸能活動を自粛いたします」とした。

所属事務所は「タレントという全国に発信する立場の者として、あるまじき行為」として本人を厳重注意した後、1年間の活動停止を決めた。処分を受けた星野は放心状態で「申し訳ない」と話しているという。[2007年11月22日8時18分 紙面から]*1

星野奈津子が自身のブログに書き込んだ内容は、以下の通りである。

家族皆でニュースを観ながらあぁだこぅだ言うのが大好きで、

今我が家で1番話題なのが、祖母と3才5才の姉妹が行方不明になった事件。

『あれは絶対父親の仕業だよ!』
『父親がいい!あんだけテレビで証言してるけど、実は犯人でしたって捕まるのが見たい!』

とかそんな話で持ち切り!!*2

星野がテレビタレントであれ一般人であれ、社会的な事件の容疑者を、公に開かれたメディアにおいて憶測で名指しすることは言語道断である。ましてや被害者の父親をブログで犯人扱いするとは、彼女自身の常識感覚を疑わざるをえない。

とはいえ、星野と彼女の家族が、被害幼児が行方不明になった事件に関して、父親を犯人だと見なしてしまったことは、理解できないことではない。秋田県藤里町で起こった畠山彩香ちゃん殺害事件をはじめとして、今の日本には、親が子を殺したり、子が親を殺す事件は枚挙に暇がない。だから世人の心性には、子ども殺しの犯人はその親であると見なすことに、何らの抵抗もなくなっている可能性は大いにある*3

この若い女優の舌禍は、期せずして今の日本人の病を明らかにしてしまったように思われる。そのことが全く注目されていないことは残念である。

メディア・リテラシー

問題はそれだけではない。一般的に考えれば、そのような投稿がポリティカル・コレクトネスに反していないわけがない。にもかかわらず、どうしてそのような投稿がなされてしまったのか。

想定されうる第一の理由は簡単である。87年生まれの、若干20歳のバカ女優に適切なメディア・リテラシーがなかっただけの話である。星野は高卒らしいが、メディア・リテラシーは大学に通っているからといって身につくものではない。

石渡嶺司が述べるように「バカ学生はミクシィやブログをメディアなどではなく、日記帳程度にしか考えてはいない。日記帳とはつまり、自分の思ったことを好きに書いてもいいもの*4」である。石渡は、テレビのクイズ番組でカンニングをしたバカ学生が、そのことをわざわざミクシィの日記において白状してしまったがために、大学から事情聴取されてしまったことや、ある財団からの助成募集に落ちた団体代表のバカ学生が、自身のブログでその財団を罵倒したけれども、そのブログを財団の担当官に見られてしまったことを紹介しているが、「本人しか読むことのできない個人的な日記であれば大きな問題にはならなかっただろう。*5」事情はこのバカ女優に関しても同様だろう。

私は第二の理由を問題視したい。星野のブログ*6においては、所属事務所にとって商品であるテレビタレントが自らのピンナップを大きく掲載し、商品名たる芸名名義で情報が発信されている。なればこそ、その情報発信は事務所が管理しなければならないものであっただろう。それを、株式会社ジールアソシエーツは、管理を星野に一任して、ほったらかしにしていたのだ。所属事務所の責任は重い。

例えば中川翔子は自身のブログに携帯電話から投稿してまで、異常なほどの一日あたりの更新回数を誇っているが、それは彼女自身に真っ当なメディア・リテラシー能力が備わっているからであって、誰にでもできることではない。星野の所属事務所は、昨今のブログ人気を当てこんで、とりあえず所属タレントに“ブログでも”やらせてみたのだろうか。それでは彼女のマネージャーたちは、石渡の言う「バカ学生」と変わりがない。

星野は反省として一年間の活動自粛をするというが、それでは彼女のマネージャーたちにはいかなる処分が下されるのであろうか。私はタレント以上に、所属事務所の責任が追及されるべきだと考える。若干20歳のガキタレントの管理不行き届きである。タレントが一年間も活動自粛をするのならば、社長と担当マネージャーは減俸3か月くらいされてもよさそうだ。

20歳の若いタレントに寛容さを

そして、普段ならバカタレントなぞ一顧だにしない私だが、さすがにたった一度の不適切な発言で、しかもまだ芸歴の浅い、若干20歳のガキなのに、一年間も活動できないというのは同情せざるを得ない。60歳、70歳のいい歳したジジイの国会議員の不適切発言とは違うのである。活動自粛などの反省は当然あってしかるべきだが、せめて3か月とか、せいぜい半年くらいにしてあげたいものだ。2ちゃんねらーが示唆的なことを言っているが、アダルトヴィデオ転向も忍びない。

恐らく、今回もまたブログ炎上が発端となって引き起こされた事件だろう。私はそういった揚げ足取りの「祭り」に群がる馬鹿インターネット利用者は唾棄すべきものだと思っているので、今回は敢えて彼女の側に就く。それは私自身の「社会的正義」である。

こういう見過ごされかねない社会的な問題について「知識人」こそが敏感に反応すべきである。「知識人」とは具体的に言えば、学者やジャーナリストである――そして大学院生である私も学者の卵であり、「知識人」の端くれだ――が、私の意見に賛同してくれる「知識人」を切に求めたい。今回はたまたまテレビタレントの周辺で起こったから、俗っぽい話題になってしまっているが、事はそれのみに収斂しはしないだろう。


(07年11月25日追記)ウェルダン穂積って誰だよ? って感じだが、大上段に振りかぶっている新聞記者やジャーナリスト、そして学者先生よりも、事務所を解雇されたこのフリー芸人のほうが問題意識に鋭敏である。

MSN産経ニュース『“アキバの赤い彗星”が星野奈津子を擁護』2007.11.25 17:16

ブログでの不適切発言を理由に、所属事務所から芸能活動停止処分を受けたタレントの星野奈津子(20)について、お笑い芸人で“アキバの赤い彗星”ことウェルダン穂積が自身のブログで持論を展開、星野を擁護する見解を示した。

タイトルは「星野奈津子よ!自由になりたくないかい」。星野の発言について不謹慎と認めつつも「まあ、よくあるミステリー好きな発言をしただけのかわいいもんである」とコメント。「1年活動停止に追い込まれたアイドルと家族とその感情はどこに向かえばいいのだろうか」と意見を述べ、星野に対する厳しい処分を批判した。

「まぁ、もちろん。これが異常な事態だからニュースになっているわけでもあるが」と前置きした上で、「本当に不謹慎な世の中のことから目をそらしていったいなにが不謹慎なのだろうか」と疑問を投げかけた。

最後に、お笑い芸人の小島よしおのギャグ「そんなの関係ねぇ」を引用し、「海パン一丁で自由になってくれ」と謎のエールを送った。

■ウェルダン穂積

お笑いコンビ「ウェルダン」のメンバー。吉本興業主催の漫才選手権大会「M−1グランプリ」に参加するも2回戦で敗退。TBS系列の番組「サンデージャポン」に出演したが、週刊誌でやらせ疑惑が浮上し、所属事務所を事実上の解雇となった。テレビアニメ「機動戦士ガンダム」の人気キャラクター「シャア・アズナブル」のコスチュームを着て街頭演説などをしている*7

但し、穂積のブログ*8は、あまり的を得たことは言っていない。父親をも疑って警察が捜査しているということを、2ちゃんねるを典拠にして明らかにしているが、それは果たして真実だろうか。2ちゃんねるの投稿を二次資料としつつも、原資料を明らかにしないことには星野と同じ憶測でものを言っているのと同じに過ぎない(私は、2ちゃんねるでの発言は、井戸端会議が文字化されたものと同じだと思っているが)。単なる馬鹿ブロガーが一人増えただけのことだ。

またこの問題で、わざわざ外山恒一の発言をひいてくることも意味があるのかどうか。「大学までずっとレールに乗って生きてきたやつは話すことがつまらなくてイラつく。まったくレールを逸れた話をしない。」だからなんだと言うのか。星野は高卒だからレールから逸脱した話をして面白かったとでもいうのだろうか。私は、センセーショナリストの感性が発揮されるべき時と場所があると思う。こういう社会的な問題に際して、センセーショナリストを正当化するのに、同種の人間(と言っては語弊があるかもしれないが)を持ってくるのは、はっきり言って意味がない。本当に星野を擁護したいのならば、せめてなべやかんくらいの筆致は達成してもらいたい。

(07年11月26日追記)むしろ穂積の星野に対する関心は、別のところにあるのではないか。すなわち、芸能人がことほど斯様に、容易に解雇される実情である――引用文中にもあるように、穂積も事務所から解雇されている。ならば、自身がお笑い芸人ならばなおさら、この問題について誠実に訴えた方が得策であろう。いま最も話題で、解雇される可能性のない海パン芸人のギャグを持ってくるのは、意味をなさないところか、逆効果ですらある。もっとも、つまらない芸人がクビを切られることは当たり前なわけだが、穂積のセンスのなさは万人が認めるところかもしれない。


(07年11月26日追記)午前4時24分現在、ウェルダン穂積のブログからのリンクが300回を超えている。私がトラックバックを送信したからだが、それによって私のブログへのハイパーリンクが、リンク欄において最上段に表示されてるからだろう。

そして穂積のブログが「炎上」している。穂積のブログに群がる連中と、星野のブログに群がった連中がある程度一致するのは間違いないだろうが、そういう「祭り」の何が面白いのかは、私には全く理解できない。「炎上」しているブログの情報を共有するサーヴィスを一瞬でも提供する馬鹿企業が出てくる昨今だ。数多の馬鹿どもが跋扈する、まことに理解に苦しむ世の中である。


(07年11月28日追記)香川県坂出市での祖母と孫二人の殺人、死体遺棄事件で、この祖母の義弟が逮捕された。容疑者は父親ではなかった。星野サン、穂積サン、そして彼らのブログに群がった煽り屋の皆さん、乙彼様でした。

毎日.jp『香川3人不明:祖母の義弟を死体遺棄容疑で逮捕 殺害供述』

香川県坂出市林田町のパート従業員、三浦啓子さん(58)と、三浦さんの孫娘2人の計3人が行方不明になっている事件で、県警坂出署捜査本部は27日、三浦さんの義弟の元会社員、川崎政則容疑者(61)=高松市国分寺町国分=が「3人を殺して県内の山中に捨てた。1人でやった。子どもは騒がれたので殺した」と認めたことなどから、同容疑者を死体遺棄容疑で逮捕した。捜査本部は遺棄場所や動機などを厳しく追及するとともに、今後、共犯の有無も視野に入れながら殺人容疑でも調べる。室内に大量の血痕を残し、3人がこつぜんと姿を消した異様な事件は、親族が容疑者として逮捕されるという新たな局面を迎えた*9

*1:http://www.nikkansports.com/entertainment/p-et-tp0-20071122-286207.html(07年11月23日)

*2:http://japan.techinsight.jp/2007/11/200711221525.html及びhttp://etc6.2ch.net/test/read.cgi/motenai/1195528537/(07年11月23日)

*3:敢えて私見を述べさせてもらえば、父親の人相が悪いことは確かである。取材陣を前にしても方言を話し、敬語を用いず、亀田兄弟の父・亀田史郎をほうふつとさせるように思われる。

*4:石渡嶺司『最高学府はバカだらけ――全入時代の大学「崖っぷち」事情』光文社(光文社新書)、2007年、第一章「アホ大学のバカ学生」p.44。

*5:同上、pp.45-46

*6:http://ameblo.jp/hoshino-natsuko/

*7:http://sankei.jp.msn.com/entertainments/entertainers/071125/tnr0711251716004-n1.htm(07年11月25日)

*8:http://welldone.cocolog-nifty.com/akaisuisei/2007/11/post_f3e2.html(07年11月25日)

*9:http://mainichi.jp/select/jiken/news/20071128k0000m040036000c.html(07年11月28日)