Gambling with the trick, or treat?

Gambling With the Devil

Gambling With the Devil

  1. Crack the Riddle (HELLOWEEN) - 0:52
  2. Kill It (Deris) - 4:13
  3. The Saints (Weikath) - 7:06
  4. As Long As I Fall (Deris) - 3:41
  5. Paint a New World (Gerstner/Weikath) - 4:27
  6. Final Fortune(Grosskopf) - 4:46
  7. The Bells of the 7 Hells (Deris) - 5:22
  8. Fallen to Pieces (Deris) - 5:52
  9. I.M.E. (Deris) - 3:46
  10. Can Do It (Weikath) - 4:30
  11. Dreambound (Gerstner/Weikath) - 5:57
  12. Heaven Tells No Lies (Grosskopf) - 6:56
  13. We Unite (Grosskopf) - 4:34

発売直後ということで、2ちゃんねるHELLOWEENスレッドには本作を礼賛する投稿が多数上がっているが、それらの中には、安からぬ金額を支払ったからには味わい尽くし、褒めちぎらずにいられないという浮かれた熱狂がどのくらい含まれているだろうか。少なくとも私は、手放しに本作を肯定することはできない。

本作を通して聴いた率直な感想は「『THE DARK RIDE』パート2だな」というものである。つまり、ミヒャエル・ヴァイカート(G.)が嫌って追い出したローランド・グラポウ(G.)とウリ・カッシュ(D.)が、ヘゲモニーを握って作られたあのCDに似ているように思われるのである。あるいは、『BETTER THAN RAW』パート2である。同作にはグラポウの曲はないし、楽曲構成もそっくりだ。最後から二曲前にヴァイカートのコミカルで能天気なポップソング――"Lavdate Dominvm"と"Can Do It"――が置かれていることがその好例である。〔11月1日に遅ればせながら『BURRN!』11月号を買ってきたが、同誌(p.186)でも小澤明久が同作が『BETTER THAN RAW』に近い作風であると述べている(07年11月2日追記)。〕

「METALGATE」では#8が『THE DARK RIDE』の"If I Could Fly"に似ていると言われているが、私はシングルカットもされた#4もまた同曲に似ているように思われる(作曲者が同じアンディ・デリス(Vo.)なのだから、当然と言えば当然だが)*1。実質的な一曲目の#2を、ライナーノーツにおいて伊藤政則JUDAS PRIESTの"Painkiller"に、「METALGATE」は『BETTER THAN RAW』の"Push"に準えているが、それらの言わんとするところは、つまり同曲がブルータルだということである。

「ブルータル&ポップ」が、デリス加入以降のこのバンドの基本路線である。ミヒャエル・キスケ(Vo.)が抜けてハイトーンシャウトを失い、カイ・ハンゼン(G. & Vo. 現GAMMARAY)あるいはグロポウを失くしてメロディアスさがなくなった。結果残っているのは、デリスのブルータルさと、ミヒャエル・ヴァイカートのポップさだけである。

ところがヴァイカートのポップさが、デリスの歌唱に合っているとはずっと思っていなかったし、本作を聴いてもそのことを痛感させられた。#3はヴァイカートの作曲だが、メロディは"Eagle Fly Free"、歌詞は"How Many Tears"を彷彿とさせるが、ライヴなどを観てもキスケに比べて音域の低いデリスが、ヴァイカートの作る曲を唄いこなせていないのは明白である。そもそも、中低音域を最大の武器とし、ブルータルな雰囲気を醸し出すデリスが、ポジティヴな曲を唄うことに無理がある。

このバンドの中では、政治的にはヴァイカートがヘゲモニーを握っているらしい。だから先にも述べたように、グラポウとカッシュを解雇したのは彼の強権である。ところが、作曲上の主軸がデリスであるのは作曲数の多さから言えることで、リーフレットのコメント執筆を行っていたり、インタビューにもバンドを代表して答えたりしていることから、このバンドのリーダーはヴァイカートではなく、明らかにデリスである。

デリスの楽曲は明らかにジャーマン・メタル、少なくともメロディック・メタルの伝統にそぐわないものだが、そこをザシャ・ゲルストナー(G.)とマークス・グロスコフ(B.)の佳曲が命脈を保っている。「#6は"I Want Out"*2を超えた?」というCDショップの宣伝文句は大げさだが、グロスコフの曲#6からは、ジャーマン・メタルの伝統が薫ってくる。作曲面から言えば、この二人と提供曲数が同じヴァイカートは、もはやいちギタリストにすぎない。

言うまでもないことだが、ハンゼンとキスケがいたHELLOWEENと、デリスが加入したHELLOWEENは明らかに同名異体のバンドである。共通するメンバーがいることから前者の著作権をも有しているが、誤解を怖れず言えば“ただそれだけ”である。逆に言えば、同じ名前を有してしまっているがゆえに、過去の栄光に縛られてしまい、『KEEPER OF THE SEVEN KEYS -THE LEGACY』などというタイトルのCDを作ってしまうのである。

本稿は本作や現在のHELLOWEENを貶める意図を一切持っていない。付言すれば、本作は佳作ではないが、良作である。だが良作を量産できることがプロフェッショナルであり、よいバンドの条件である。本稿は、戦犯が処刑されようがされまいが、結局作られるものは同じだったということを示したいのみである。つまり、デリスこそがHELLOWEENの中核であり、ヴァイカートは以前ほど重要ではないということである。

我々は認識を改めるべきだろう。このHELLOWEENはあのHELLOWEENではないし、"Eagle Fly Free"や"How Many Tears"という佳曲は歌い手を選んでこそ歌曲になりえたのである。そうして初めて、我々はこのバンドを正当に評価できるのである。

*1:http://www.metalgate.jp/R_helloween.htm(07年10月29日)

*2:KEEPER OF THE SEVEN KEYS PART2』収録。作曲はカイ・ハンゼン。