Lauter Verriss zur »Goettin des Examenmachens.« (1)

マジで見ちまっているから、マジで言えるモノがある。

『受験の神様』第二話が今晩放映された。成海璃子ファンの私は、ただそのゆえにビデオに録画してまで鑑賞した。だからこそ、言えることがある。第一話、第二話と両方見たが、今のところ面白くない。

ビデオリサーチ社のウェブサイトによれば*1第一話の視聴率は14.7パーセントである。ドラマの場合初回視聴率だけでその作品の是非を問うことはできないので、ここからどう推移するかがまず問題である。しかし、第二話は下回るのではないかと私は見ている。

主人公の梅沢家を取り囲む、西園寺家と手塚家の二家族はありがちな設定だが、こうしたドラマには必要な配剤である。父親が医師であり、家業を継がせるために子どもたちに受験勉強をさせる西園寺家、元ヤンキーの母親がお受験に目覚めた手塚家、こうした脇役はなくてはならない。受験に過熱する両母親と、あまり乗り気でない父親、あるいは息子の成績に一喜一憂の父親像は、梅沢家との対照を成す。

「お受験ドラマ」と聞いて私が真っ先に想起するのは『スウィート・ホーム』(1994年、TBS)である。同作でもやはり「お受験」に振り回されるのは、三つの家族であった。同作は、日本語版ウィキペディアで記されているように、「井上家を軸としつつ吉永家や桜井家の人間模様も同じように丁寧に描いていたこと、……脇役俳優陣の個性溢れる演技などが今もなお評価される要因であろう。*2

だがそれ以外の脇役はどうか。脇役陣の中でも割と名が知られていると思しき海東健黒田勇樹は単なる脇役以下、エキストラと変わらない存在感しかない(いま調べるまで、海東は教師役だと思っていた。*3)。西村雅彦も浮いている。今のところラグビー入社の勇(山口達也)にイヤミを言うばかりである。

それ以上にメインキャストがはまっていない。私としては山口の父親に納得がいかない。上述の『スウィート・ホーム』の場合、主人公である井上家の父親は布施博であったが、当時の実年齢は36歳であり、現在35歳(!)の山口とほぼ同じである。しかしそれまでドラマの出演数を着実に増やしていた布施に対し、山口は連続ドラマ俳優というイメージが全くない。よりはっきりと言えば、父親役が上手いとは思えない。『鉄腕DASH』で精力的に農作業に勤しむイメージから、ラグビー入社の体力バカ社員という役柄が生まれたのかもしれないが、ならば会社のシーンでもっとコテンパンにされたほうが父親としてもダメで、成長過程にあるということがはっきりするのでわかりやすい。西村の彼に対するイヤミが本物のイヤミばりに陰湿なので、印象的だが派手さがない。

本作のプロデューサーに言わせれば「14歳とは思えない神秘性、透明感のある成海さん以外この役は考えられなかった*4」そうだが、菅原道子という役柄には神秘性も透明感も必要ない。要るのは神秘性ではなく不気味さ、透明感ではなく無機質感である。成海がこうした不気味で無機質な役柄を演じきれているとは思えない。まばたきもせず瞳孔全開で、抑揚なくぶっきらぼうにセリフを喋れば「ロボット女」になるというのか。それではただの無愛想で高慢ちきな、勉強ができるだけの天才中学生である。

「ロボット女」にしては感情を見せすぎ、「高慢ちき」にしては見せなさすぎ、要は成海の菅原道子は中途半端である。後者の場合、榎本加奈子のほうがよっぽど上手く演じたに違いない。第二話で広(長島弘宜)が言ったように「何を考えているのかわからない」点だけは伝わってきた。

このドラマは全てが中途半端である。現実的なのか、非現実的なのか、判然としがたい*5。関東、中京、関西圏という都会では過熱しつつある中学受験を取り扱う以上、現実志向なのだろう。なればこそ主人公に、「勉強の神様」菅原道真をもじって菅原道子という名前をつけるべきではなかった*6

ゴルゴ13でおなじみのさいとうたかを氏は、かつてゴルゴ13について「荒唐無稽な主人公だからこそ、細部は本物に、リアルに描いているのだ」と言っていたことがあります。

受験の神様にも当てはまるのではないでしょうか。荒唐無稽の主人公だからこそ、細部はリアルに拘っていかないと視聴者になかなか本質が届かない。そんなふうにも思います。*7

第一話で明らかになったように、特待生の道子は中学校への登校を義務づけられていない。だが、中学の教員免許を持っている者として言わせてもらえば、どこの学校設置者に生徒に義務教育を放棄させる権利があるのか。教育基本法違反である(今のところ)。

そして不幸なことに、中学受験の過熱は先に述べた通り都会において“のみ”の現象である。地方にも国公立大学教育学部附属などの国立中学校は確かにあるが、都会ほどの過熱振りが見られることは少ない。従って、このドラマのライトモーティフ自体が、日本全体から見れば“非現実的”なのである。

前記『スウィート・ホーム』の時点でも、小学校の受験なんて全国的に見れば非現実的な話題でしかなかった。それでも尚高視聴率を叩き出したのは、シリアスなテーマに織り込まれるコメディックなエピソードがあったからである。

方や本作は、地方の人間にしてみれば話題は非日常的、描かれ方はハードで見ていて疲れる。時折挿入される山口と長島の下らない駄洒落は、正直却ってサムい。

いじめ、不適格教師、学級崩壊、ゆとり教育の見直し、教育三法改正など、教育問題が人口に膾炙する機会が多いからこそ、「学校」をテーマにしたドラマが多く作られている。なればこそもっとリアルな物語を構築すべきなのではないか。このままでは菅原道子は阿久津真矢にはなれない。

……でもまあ、おれは見続けるけどね。成海璃子が、トゥキダカダー!>(`Д´)ノ""(チャン・ドンゴン風)


かつてのフジテレビの名物プロデューサー、横澤彪も私と同意見のようだ。

そのカリスマ家庭教師をやっているのが、オレも注目している成海璃子。期待して見たんだけど、「結果がすべて」という冷徹な性格の役柄で、まったくの無表情。「神様は笑わない」ということでそれがウリなんだろうけど、リアクションがなさすぎて、ちょっと期待外れだった。ずっとこの調子では成海璃子も好感をもたれないだろうから、損だよなぁ。*8

第一話の放映以前の記述を見る限り、私ほどではないにしても、横澤も成海とこのドラマに期待していたことは間違いない。

読売新聞の記者もこのドラマに苦言を呈している。

今日的テーマ評価

岡 そんな風潮の中、オリジナル脚本で「お受験」という今日的なテーマを取り上げた「受験の神様」は評価できます。見ていて、身につまされる思いになる親も多いと思うなー。

律 そうかなぁ? 性格に問題がある中学生の天才家庭教師って、「女王の教室」と「ハケンの品格」を足して二で割ったようで既視感たっぷり。塾にしても、周囲の親にしても描き方が平板で、茶番にしか見えませんよ。*9

日本語版ウィキペディアのこのドラマの項によれば、第二回の視聴率は9.3パーセントだそうだ(確認は07年7月24日)。私の予想は当たった(以上、7月24日追記)。

*1:http://www.videor.co.jp/data/ratedata/top10.htm(07年7月22日)

*2:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0_%28%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%9E%29(07年7月22日)

*3:海東健はやはり教師役であった。恐らく第四話で初めて彼の顔がはっきりと映されたと思うが、いずれにせよ日本語版ウィキペディアは簡単に信用してはならなかった(07年8月6日追記)。

*4:http://hochi.yomiuri.co.jp/entertainment/news/20070519-OHT1T00072.htm(07年7月22日)

*5:以下に示すブログの記事は一見に値する。すなわち本作の中途半端さを「衝撃的ギャグドラマ」と揶揄している。このドラマの視聴者が感じる違和感は、この記事に要約されているのではなかろうか。http://d.hatena.ne.jp/thir/20070716(07年7月24日)

*6:ちなみにドイツ語版ウィキペディアによれば、菅原道真はKami der Gelehrsamkeit(博識の神)と称されている。本稿のタイトルは、当然それをもじってつけている。http://de.wikipedia.org/wiki/Sugawara_no_Michizane(07年7月22日)

*7:http://受験神.sblo.jp/article/4747397.html(07年7月22日)

*8:http://www.j-cast.com/tv/2007/07/20009515.html(07年7月24日)

*9:http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/yy/freetalk/20070719et01.htm?from=os1(07年7月24日)