萩本監督個人の責任を問う−茨城ゴールデンゴールズの「解散」に関して

吉本興業の所属タレント、山本圭壱(圭一)は、所属する社会人野球チーム「茨城ゴールデンゴールズ」の遠征先である北海道函館市で17歳の未成年女性と飲酒や性的行為を行った。同女性は被害届を警察に提出し、山本は任意で事情聴取を受けた。

これを受けて、同球団を所有し、監督も務める萩本欽一はマスコミの前で球団の「解散」させる意向であることを公にした。山本の事件がわかった18日の翌日、19日のことである。

突然の解散宣言に、ファンや関係者からは存続を求める声が相次いでいる。茨城県稲敷市(旧桜川村)という農村部が多い土地に本拠地を置く球団と、地域住民との結びつきは厚いらしく、そこでも解散を残念に思い、存続を願う住民が多い。

だか私は、一選手の不祥事が、チームの「解散」に至るプロセスに疑義を呈したい。どうして一選手の不祥事を、チーム全体が連帯して責任を負わなければならないのか。

言うまでもないことだが、そんな必要はない。一般的に考えてみよう。まず当事者である山本の除名処分は当然であろう。そして次に、指導的立場にあり、また監督責任があった萩本監督と、球団を管理する法人*1の上層部(代表者など)の何らかの処分が考えられる。これは、山本の反社会的行為は遠征試合先で行なわれたことから、当然のことである。しかし、萩本監督や球団代表者に何らかの免罪行為は、今のところ、ない。

あるプロ野球選手が、自球団の遠征先で、山本と同じような問題を起こしたと仮定しよう。やはり指導的立場にあり、また監督責任があったとして、その球団の監督や球団社長には何らかの処分が下されるだろう。わかり易く言うと、給料の数十パーセントを減給するといった形である。但し「ゴールデンゴールズ」は職業球団ではないので、減給といった形での責任を負うことは不可能に近い。

だからと言って、萩本監督や球団代表者は責任を果たさなくていいとは思わない。あまり賢明な方法だとは思わないが、彼らが丸坊主になって土下座というやり方も、日本古来からあるものである。私が言いたいのは、やり方ではなくて、彼ら自身が何らかの方法で責任をとるか否かである。

にも拘らず萩本監督は、自身の責任を半ばチーム全体に転嫁する形で「ことの大きさからも責任を感じる。山本だけの責任じゃない。私が始めた野球だから、大好きな野球だけど、やめる〔チームを「解散」させること〕ことにしました」*2と述べた。巧妙に自身の責任を覆い隠している。

彼が、山本の不祥事の責任をとって一家心中すると言うのなら、では球団結成のために彼が呼び集めた選手たち、「高校、大学時代プロを目指していたけれど、何らかの理由で野球を続けられなくなってしまった、、、そんなメンバー」*3たちの夢が半ばで潰えることに対する責任はどう果たされるのか。

例えば、片岡安祐美選手である。高校時代から硬式野球部に所属しつつも、高野連の規定で公式戦には出場できず、性別を理由に日本プロ野球界に門戸を開いてもらえなかった彼女は、それでも野球を諦められなかったところを、萩本監督の新社会人球団に見初められる。彼女はこの球団に入団するために、故郷の熊本県から茨城県の大学に進学した。片岡選手の一生を大きく変えたと言っても過言ではない萩本監督は、彼女に対してどう責任を負うのか。

正直、私には、萩本監督と球団代表者たちは無責任だとしか思えない。泣き顔でマスコミの前に立ち、「解散」を宣言したら責任を果たしたことになるのか。指導者、監督責任者としての萩本監督や球団代表者個人の責任はどうあがなわれるのか。

もっと問題なのは、数多のマスコミがこうした萩本監督と球団代表者の「責任転嫁」に気付いていないことだ。唯一読売新聞の記者が一度だけ言及している*4が、奥歯に物が挟まったような言い方をしていて、歯切れがよくない。それとも、この読売新聞記者も含めて、萩本欽一監督は大御所芸人だから最大限に気を遣っているだけなのか。だとしたら、尚更マスコミたちは質が悪い。同球団のファンたちが存続を切望する声を記事にして美談として仕上げ、結局は萩本監督や球団代表者の無責任さを助長しているからだ。

改めて述べるが、萩本監督は球団を「解散」させる必要はない。不祥事を起こした選手は即時除名処分をすべきである。そして代表者も含めて、自身の責任を明確にし、何らかの処分を自分たちに下すべきである。例えば、全国を周って「お詫び行脚」をするとか、そういう時にこそ、自身のエンターテイナーとしての本領が発揮されるであろう。それが、ファンと、他の選手に対する責任の果たし方である。

註I

YOMIURI ONLINE『【コラム】「唐突解散」に疑問…野球再生の志とギャップ』

衰退が叫ばれた社会人野球界を救おうと、萩本欽一さんの豊富な人脈と斬新なアイデアで注目を集め、アマチュア野球のあり方に一石を投じた社会人野球のクラブチーム「茨城ゴールデンゴールズ」が、所属選手の不祥事を受けて、危機にたたされている。所属選手でタレントの山本圭一さん(極楽とんぼ)が少女にみだらな行為をしたとして、北海道警函館西署に事情を聞かれたことによるもので、19日、監督の萩本さんは「大好きな野球だけど、やめることにした。山本が責められるだけの問題ではない」と解散の意向を明らかにした。

所属選手が働いた反社会的行為については言語道断。これが高校野球なら、長期間の出場停止も当然という事態だけに、チームとしての責任の取り方を考えるのは、当然のことだ。ただ「解散」という結論に至る手順には疑問が残った。

関係者によれば、この会見に至るまでチーム上層部に、今後についての結論は出ていなかったという。「今後の試合のチケットを買ってくれたファンや支援者と話し合った上で結論を出そう。そのために、時間を置こう」。そう言って会見に臨んだ萩本さんだったが、報道陣の前で感情がたかぶり解散を口にしてしまったようだ。

野球人気が衰退する中、「野球を元気にしたい」とチームを作った萩本さん。それだけに「野球をやらしていただいて、野球に失礼してしまった」という言葉からは強い自責の念が伝わってきた。ただ、本当に「球界への責任」を感じたなら、グラウンドに立ち続け、チーム全員で再スタートを切る道もある。

地域に根ざしたクラブチームを育て、地方から「野球再生」を目指した萩本さん。その理念は多くの共感を呼んだ。簡単に、その“草の根”を枯らしてしまって良いのだろうか。(下山田郁夫)(2006年7月20日 読売新聞)*5

*1:同球団のウェブサイトによると、同球団はNPO法人として茨城県から認可されているらしい。

*2:http://www.mainichi-msn.co.jp/sports/ama/ibaraki_gg/news/20060720k0000m040059000c.html(引用は06年7月22日)〔 〕内は引用者の補足。

*3:http://219.94.130.200/%7Egoldengolds/gg/

*4:上記註I参照。

*5:http://job.yomiuri.co.jp/news/jo_ne_06072011.cfmより引用(06年7月22日)。