You've got a dragon power to rampage inhumanly? (2)

この記事は2つに分けられたものの後編である。前回はこちら

インヒューマン・ランペイジ

インヒューマン・ランペイジ

DRAGONFORCEはイギリスで結成されたバンドであるが、文字通り「イギリスのバンド」とは言えない要素がある。本作のブックレットに写されているバンドメンバー5人*1の中に、明らかに東アジア系の顔立ちが目立っている。それがバンドの中心人物であり、旧イギリス領香港生まれのハーマン・リィ(Herman Li、ギタリスト)である――アメリカのバンドDREAM THEATHERにもジョン・ミュング(John Myung)という、両親ともに韓国系という韓国系アメリカ人がいるわけだが、欧米のバンドに東洋系の顔立ちがあることは、私はいつまでも経ってもなかなか慣れない。

リィだけではない。彼らのウェブサイトを見ると、まずヴァディム・プルツハノフ(Vadim Pruzhanov、キーボーディスト)は見た目こそヨーロッパ系であるが、スラブ系の名前が示す通り、ウクライナの出身である。現在23歳というから、チェルノブイリの災禍を逃れてロンドンに移住したのだろうか。

更にメインソングライターのサム・トットマン(Sam Totman、ギタリスト)は生まれこそイギリスだが、幼い頃にニュージーランドに移住している。アイデンティティはその土地で築かれたものと想像できる。そして本作リリース直前に脱退したベーシストの穴を埋める形で最近加入したフレデリック・ルクレルク(Frederic Leclercq)はフランス人だ。

加えて、彼らの公式ウェブサイトには記載されていないが、ヴォーカリストのZPサート(ZP THEART)は南アフリカ出身であることをしばしばインタヴューなどで語っている(下記註I参照)。恐らくアフリカーナーであると思われる。即ち、私たち日本人が想像するような所謂「イギリス人」はドラマーのデイヴ・マッキントッシュ(Dave Mackintosh)しかいないのである。北欧のメタルバンドに多い「多国籍バンド」と言う訳ではないが、しかし素直に「イギリスのバンド」とも呼びがたいのは私だけだろうか。

昨夏ロンドンでは、パキスタン系、ジャマイカ系、アフリカ系の移民たちが犯人とされる地下鉄爆破事件が発生した*2。イギリスから遠く離れたところに暮らし、また行ったこともない日本人は、そのとき初めて「イギリスはアングロサクソンだけの国ではない」と認識しただろう。私もそうであった。

時をほぼ同じくして、フランスでは移民系住人による暴動が発生したのも去年のことであった。ごく最近では、ワールドカップの決勝戦で、フランス代表選手のジネディーヌ・ジダンが、イタリア代表選手マルコ・マテラッツィに頭突きを食らわせたのも、一説にはジダンアルジェリア系移民であることを揶揄した人種差別発言があったからだとも言われている。

アメリカは言うまでもないが、いまヨーロッパの各国は移民の国と化している。否、移民の国であったことが明らかになったと言うべきであろうか。先日までワールドカップで賑わっていたドイツも、やはりトルコ移民が約200万人いると言われている。

先に述べたように、最近、北欧のヘヴィメタルバンドは多国籍化していることが多い。STRATOVARIUSフィンランド人を中心としてドイツ人やスウェーデン人もいる。ARCH ENEMYスウェーデン産だが、中心人物のギタリストはイギリス国籍だし、ヴォーカリストはドイツ人女性(!)である。これは、ヘヴィメタルが高度な演奏技術を要求されつつ、しかし市場が小さいため、フィンランドスウェーデンのようなそもそも小さい国では人材が賄えないという事情に起因しているようだ。無論、ヘヴィメタルは海外に主要な市場を求めているので、バンドメンバーは同一国籍、同一民族であることは求められない*3

しかしながらDRAGONFORCEの特異性は、バンドメンバーが多国籍ではなく、移民が多いという点にある――何を持って「移民」とするかはシヴィアな問題だが、旧植民地などから旧宗主国に渡ってきたリィやZPサートは紛れもなく移民だろうし、幼少時に移住して以来イギリスに住むプルツハノフも、やはり移民であろう。ニュージーランド育ちのトットマンも、やはり生粋のイギリス人とは呼べない。こうしたバンドが、これまで単一国籍のメンバーによるバンドを多く輩出してきたイギリスから出てきたことは極めて興味深い。

純和風ならぬ、純イギリス風ではないこのバンドが、BEATLESのような、あるいはQUEENのような、もしくはTHE DARKNESS*4のような国民的な存在になることはないだろう*5。彼らの音楽が仮にヘヴィメタルではなかったとしても。寧ろ、「イギリス人になりきれない」アウトサイダーとしての自己を自覚しているからこそ、グローバルな音楽としてのへヴィメタルを彼らが選択した可能性もある。

そのように言い得る理由は、このバンドの最初のキーボーディスト、スティーヴ・ウィリアムス(Steve Williams)とベーシスト、スティーヴ・スコット(Steve Scott)は白人イギリス人であったが、彼らの後任はご覧の通りイギリス人ではない。正確に言うとウィリアムスの後任はプルツハノフだが、ベーシストはスコットのあとイギリス人のエイドリアン・ランバート(Adrian Lambert)の次にルクレルクとなっている*6。白人イギリス人の仲間に去られた南アフリカ人と香港人ニュージーランド育ちのバンドに、ウクライナ人とフランス人が寄ってきたという事実は、このバンドの特色を言い表しているだろう。

それにしても私たちは、IRON MAIDENが『THE NUMBER OF THE BEAST』を携えて現れた時に、あるいはHELLOWEENが2枚の『KEEPER OF THE SEVEN KEYS』アルバムを持って現れた時に世界が受けたのと同等の衝撃を、DRAGONFORCEを通して目の当たりにしているのだろうか。

白人イギリス人のバンドIRON MAIDENがヘヴィメタルという音楽を世界で初めて定義し、ドイツ人のバンドHELLOWEENがそれを進化させてメロディックスピードメタルメロスピ)、あるいはパワーメタルを打ち出した。そしてDRAGONFORCEの、スピード感や疾走感に徹底的に拘った音楽性はもはやメロスピの枠を越えている*7。イギリスから生まれ出たヘヴィメタルが他国民の手により発展し、イギリスへと舞い戻ったとき、その担い手は「移民のバンド」であった。これがイギリスの現実であり、ヘヴィメタルの現実である。

尚余談だが、私は、このバンドにおいて少なくともギタリスト2人が仲間割れしないことを望む。このバンドの曲は、トットマンとリィでなければ作曲できないし、弾けない。主要メンバーの仲間割れによって解散したり、黄金期とは全く違った作風になってしまったバンドは枚挙に暇がない。その際たる例であるHELLOWEENのことを考慮すると、ヴォーカリストやキーボディストも現在の人材に代わる者は得難いだろう。去る6月17日に来日ライヴがあった訳だが、私は所用につき行くことができなかった(そもそもアルバムを買ったのはライヴの2日前だったのだけれども)。是非とも私にこのメンバーのライヴを見せてほしい。




註I

※以下に引用するインタヴュー記事は、南アフリカメディアのウェブサイトに掲載されているものの拙訳とその原文である。私自身が南アフリカに詳しくないので、誤訳等は指摘されたい。

Q.今回初めてDRAGONFORCEのCDが南アフリカでリリースされますが、あなたはしばしばメディアのインタヴューで、ご自身が南アフリカ人であることを強調しています。南アフリカのどこの出身で、最初はどのようにして新しいタイプのアフリカーナーの音楽シーンに興味を持たれたのですか?

A.俺はクルーガー国立公園に近いハジーヴュウ(Hazyview)そばのバナナ農園で育ったんだよ……俺が知っているそれ〔南アフリカの音楽〕のサウンドは本当に奇妙に違いないと思うけれども、ほら、それはこの国の美しい一部分なんだ。俺はのちにネルスプリュイト(Nelspruit)に引っ越して、最初のバンドでメタルのカヴァーをやったり、1、2曲オリジナルも作った。俺は1年かそのくらい、プレトリア(Pretoria)〔2005年にツワネ(Tshwane)に改称〕ではサンタリア(Santaria)というバンドをやっていたが、それはマジでロックしていたよ! そのシーンはとても小さかったが、すでにkick assって感じだったぜ!

WR: This is the first time a DRAGONFORCE cd is getting a South African release and you often make a point of telling the media in interviews that you are South African. What part of South Africa are you from and how did you initially become interested in the alternative music scene?

A: I grew up on a banana farm near Hazyview close to the Kruger Park ... which I know must sound really strange, but hey, it’s a beautiful part of the country. I later moved to Nelspruit and had my first band there doing metal covers and one or two originals. I also spent a year or so in Pretoria in a band called Santaria and that really rocked! The scene was very small but still kicked serious ass!*8

*1:本来は6人編成だが、リリース直前にベーシストが脱退した。

*2:http://www014.upp.so-net.ne.jp/tor-ks/wol/wol19.htm

*3:しかしながら日本のバンドLOUDNESSは1988年、日本人ヴォーカリスト二井原実に代えてマイク・ヴェセーラ(Mike Vescera)を加入させたが、日本人のファンはこの米国人ヴォーカリストに馴染むことができず、結局1992年にはヴェセーラは解雇されてしまった。後任は当然日本人である。日本人の国籍的、民族的排他性はこうした音楽市場にも見ることにもできよう。

*4:03年のデビューアルバムがイギリス国内だけで100万枚以上を売上げ、つまりイギリス総人口約6000万人の16人に1人が所有している計算になる。

*5:このように記して気付いたが、QUEENのヴォーカリストフレディ・マーキュリー(Freddie Mercury)こと故ファルーク・バルサラ(Farrokh Bulsara)は旧イギリス領ザンジバル島生まれのインド人であった。そう言えば故ジョン・レノンJohn Lennon)もアイルランド系の血が入っているらしいし、エリック・クラプトンEric Clapton)も、カナダ人の父とイギリス人の母のハーフ(当時16歳であった母親の私生児)である。更に、イギリスのロックバンドTHIN LIZZYのヴォーカリスト兼ベーシストの故フィリップ・ライノット(Philip Lynott)もブラジル黒人の父親とアイルランド人の母親を持つ私生児であった。故ジミ・ヘンドリックスJimi Hendrix)はアメリカ黒人であったが、最初に注目されたのはイギリスにおいてであった。以上06年7月19日追記。

*6:但しドラマーに関しては、初代はフランス人ディディエ・アルモーズニ(Didier Almouzni)であり、後任にイギリス人が納まるという「逆転現象」が見られる。

*7:ウィキペディアによると「ほとんどスラッシュメタルデスメタルのような速度で演奏されるリズムパートに典型的な『メロスピ』スタイルを乗せるというスタイルは、これまでありそうでなかったもの」とある。

*8:http://www.wickedrock.co.za/personalwith.aspより引用。〔 〕内は訳者の補足。