違うんじゃねぇか?

asahi.com『中絶希望者に里親案内の新制度 福島県が今春から』

人口減に悩む福島県が、従来の「里親制度」を、人工妊娠中絶を減らし、出生率を高めるための施策として活用していく方針を決めた。新年度から新たに「里親コーディネーター」を配置し、出産を迷う妊婦らにも制度を紹介する。女性の「産む、産まない」の選択権が狭められないかなどの論議も予想されるが、同県は「中絶を考えている人に産んでもらい、社会で子育てを担いたい」としている。

里親制度は、虐待などで親との同居が難しくなった子どもを一般家庭で育てる仕組み。各都道府県が所管しているが、厚生労働省によると、出産前に制度を紹介するのは異例だ。

福島県によると、まず産婦人科医に依頼し、出産を迷う妊婦のうち希望者に里親制度など子育て支援策を紹介するパンフレットを配布。問い合わせに応じて児童相談所が詳しく説明し、出産後、実際に子育てが困難な場合には里親を紹介する。里親は、原則18歳まで育てる「養育里親」を想定している。

県は新年度当初予算に約2000万円を計上、新たに里親コーディネーターと心理嘱託員を4人ずつ雇い、児童相談所に配置する。コーディネーターは親と里親の間をとりもち、心理嘱託員は紹介後も継続して親や里親の心のケアなどを担う。

福島県の人工妊娠中絶実施率(女性の人口千人あたりの件数)は04年度で15.8。全国平均の10.6を大きく上回った。15〜19歳では17.7とさらに高率だ。一方で県の人口は97年の約213万人をピークに減り続け、今年1月1日の推計で約209万人に。

里親コーディネーターらの配置は、児童相談所児童福祉司不足を補うのが目的だったが、予算案を詰める際に中絶実施率の高さを問題視する声が上がり、里親制度の幅広い活用が論議された。

川手晃副知事は「妊娠中絶を考えている人に『産む』という選択肢も提示した上で、できるだけ産んでもらい、社会で子どもを育てようというのが狙いだ。倫理的な問題を指摘する声があるかもしれないが、出生率の低下や中絶の問題は深刻だ」と話している*1

選択の自由 狭める心配

恵泉女学園大学大学院の大日向雅美教授(発達心理学)の話 人工妊娠中絶がいいわけではないが、「産めよ、増やせよ」と周囲からあおるような手法は危険だ。安心して産み、育てられる環境を整備するとしながら、女性の「産む、産まない」の選択の自由を含めたライフスタイルが狭められる心配がある*2

この記事は朝日新聞2月24日付朝刊の1面にも掲載されていた。我が郷里のことが珍しく全国紙の1面で取り扱われていたので、そういう意味で驚きながら読んだ。

新聞にのみ掲載されていた大日向雅美の指摘とは異なる観点から、私は我が郷里の政策が浅薄な考えに基づかれていることを指摘しよう。

皇室典範改正問題が盛り上がりを見せるさなかに秋篠宮紀子妃の懐妊が発覚して、議論は中座した形になった。だが私が疑問に思ったのは、子供を、しかもこの問題においては生まれる前の子供を、政治の道具にするのは倫理的に正しいのかどうかということだった。

福島県の政策も同根である。記事に書いていないので以下に述べることは私の想像だが、人工妊娠中絶を選択する妊婦の大半は、恐らく独身の女性であろう。彼女たちが中絶を選択する理由は述べるまでもないだろう。

しかし福島県当局は、彼女たちに取り敢えず子供を産めと言う。産んだら、私たちに預けてくださいと言う。しかし、人間の子供をあたかも犬猫と同じように扱うのはいかがなものか。人口減を食い止めるための施策というが、そのために子供が生まれてくるのは、あたかも福島県という農場を支えるための牛や馬と同じではないか。これでは本末転倒である。農場とは異なり、福島県は住民があるから必要なのである。

またそうして生まれてきた子供たちが、自分がそのような目的で誕生させられたと知った時、健全な成長に及ぼされる影響は想像に難くない。人間は自己の可能性のみを抱いて、自己の目的のためだけに生まれてくるのであって、他の目的は一切持ち得ない。

更に、私が引いた下線部に注目してほしい。私の中学生の同級生の中にも、高校の時点で婚前性交渉により「できちゃった結婚」をした女性が何人かいるという話を聞いたことがある。厚生労働省都道府県別に統計を取った人工妊娠中絶件数・実施率の統計表*3は恐らく福島県が議論の下敷きにしたものと同じであろうが、これによると全国における15〜19歳の中絶率は12.5%*4と、確かに福島県の率はそれよりも高い。

しかし、同表を概観すると、県別の中絶実施率は一様に所謂「地方」「田舎」と呼ばれる道県で高い傾向がある。東京を中心とした首都圏、愛知県を中心とした中京圏大阪府を中心とした近畿圏はいずれも実施率が低い。

それはつまり、都市圏での性教育や性倫理に比べて、地方でのそれらが立ち遅れていることを意味するのではないか。ある地方の難関国立大学の学生は、3つのSしかすることがないという冗談もふと思い出される。即ち、Study、Sports、Sexである。

冗談はさておき、福島県の当局者が考えるべきことは「アナタが要らない子供をウチで引き取ります」ということではなくて、いかにしてに望まぬ妊娠を減らすかではないか。人口が減っているのは一人福島県だけではなくて、もはや日本全体の問題である。人口が減るというのは30年も前から予想しえていたことなのだから、どうして人口が減っても尚「持続可能な社会」――この用語は、本来環境倫理学のものだ――を検討しないのだろうか。

人口減問題も、中絶問題も、どちらも深刻にして早急に議論し解決すべき問題だ。しかしそれを安直に結びつけることは、私が指摘したように、生まれてくる子供や、或いはその母親の人権を侵害することに繋がる。福島県の当局者たちには思慮深い施策を強く要求したい。


こちらからは、私と同じ記事に言及している人たちのはてなブログにリンクできる。2月26日現在リンクできる全てのブログを概観したが、肯定している人は一人もいなかった。何れも大概私と似たような視点で、福島県の政策に懐疑的である。

そして私と同様にネット上から確認できる統計データを元に述べた一節があるので、引用したい。

> 福島県の人工妊娠中絶実施率(女性の人口千人あたりの件数)は04年度で15・8。全国平均の10.6を大きく上回った。15〜19歳では17.7とさらに高率だ。

http://www.asahi.com/national/update/0224/TKY200602230419.html

人工妊娠中絶件数:毎年8000人で推移。

人工妊娠中絶件数のうち20歳未満の占める割合:毎年増加中で全国有数の高さ。

http://www.pref.fukushima.jp/danjo/sankaku-puran/4-2-1.html

出生数:平成15年で1万8千人。

合計特殊出生率:平成15年で1.54で全国2位。

http://www.f-miraikan.or.jp/index4/4-2-3-3.htm



すなわちまとめると、福島県では年間2万6000人が妊娠し、そのうち8000人が中絶。でその数は、いずれも全国トップクラス。

もっと簡単に言うと、福島県では若者が避妊もせずにセックスしまくり、妊娠しまくり,中絶しまくっていると言う事だ。


というわけで、里親制度も結構だが、まずは若者にコンドームの使い方を教えるのが先ではないだろうか*5

私は3年間を男子校で過ごし、しかも進学校だったから周囲にはセックスしているよりも勉強している友人の方が多かった*6ので、「福島県では若者が避妊もせずにセックスしまくり」という実感がない。しかしいわゆる低偏差値校に通っていた友人などから、似たような話は聞いたことがあった。無論、「妊娠しまくり、中絶しまくり」という実態までは知らなかったが。

全国で福島県は東大合格者数が例年最低レヴェルである*7など、教育水準が低いとは言われている。思弁が過ぎるかもしれないが、私は、学科教育水準の低さと、生徒が持つ性道徳の低さとの連関を考えずにはいられない。東大合格者が都市部に集中し、未成年の中絶率が低いこととの逆の連関からも検討できる。

……都市部の高校生は大学が近くにあって自宅から通えるので、そこに入学するために受験勉強するのでセックスしないけれど、福島県の高校生は大学が近くにないから自宅通えないので、大学には行く気はないから受験勉強しないのでセックスすると考えるのだろうか。だとすると、教育の地方格差がそのまま性道徳の低下に直結していることも示唆され得る。このことは、機会があれば別稿を用意して議論したい。詳細なデータ、関連書籍等を知っていたら、教えてほしい*8

*1:http://www.asahi.com/national/update/0224/TKY200602230419.htmlより引用。下線は引用者による。

*2:2月24日付朝日新聞朝刊1面より引用。

*3:http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/eisei/03/hyou5.html

*4:厚生労働省の統計を元にした筆者による計算の結果より。

*5:http://d.hatena.ne.jp/annojo/20060224/p1より引用。

*6:しかしそれよりも、遊び呆けている友人が最も多かったことは敢えて付け加えておこう!

*7:具体的なデータを見たことはあったが、インターネット上からは探し出せなかった。

*8:以上、2月26日追記。