他山の石だが良く見えない

以前(04年末)、首都大学東京(旧・東京都立大学ほか)を批判した『クビ大には絶対行くな』という文章を書きました。そうしたらミルクカフェという大学受験・予備校の掲示板群にある都立大学スレッドの1つ*1に、このブログへのリンクが貼られ、当ブログとしては結構な数のアクセスがありました。と同時に、普段は自校を貶すくせにいざ部外者に貶されると不愉快になるペシミスティックな自校パトリオットからのバッシングもありました。

それから1年と少し経過した訳ですが、また別の新規スレッド*2で、またしても私の文章へのリンクが貼り付けられました。以前ほどではないにしても、僅かながらのアクセス数を頂けました。そこでミルクカフェのクビ大スレ住人に敬意と感謝の意を表して、また少しだけクビ大問題について言及したいと思います。

都立大学に何が起きたのか 総長の2年間 (岩波ブックレット660)

都立大学に何が起きたのか 総長の2年間 (岩波ブックレット660)

この本を読んだのは、確か去年の12月頃だったと思います。著者の茂木は昨年度(04年度)まで都立大学の総長でした。障碍児教育の研究でも実績がある学者です。

私が一昨年、東京都立大学が失われるに際してこの問題に噛み付いたのは、恥ずかしながら同じ学究者、他大に属す身分なれど都立大に対しては研究・教育両方の実績を高く評価、また憧れを抱いていたからでした。特に私の専門でもある独文学の教育・研究にかけては、都立大は国内でも優れたものがあったと思います。だからこそ岡本順治や初見基ら独文の教員たちは学内最大の抵抗の声を上げたのでしょう。いささか無責任な物言いかもしれませんが、自校の独文教員の不甲斐なさを目の当たりにしている私としては、同じ独文学者としてとても頼もしいと今でも思っています。

かつて大学受験生だった人間として、そして現在大学生として、私は現在の大学受験生に進学を勧めたい大学がいくつかあります。また逆に、絶対に推薦しない大学もいくつかあります。失われし東京都立大学は前者であり、首都大学東京や自校は後者であっただけのことです。

経済学者の的場昭弘は、昨今の大学では「海外や就職ですぐに役立つスキル」(的場 P.213)である実務教育(英会話や会計学、コンピュータなど)が流行している利点について、以下のように述べています。

実務教育を学ぶことの利点は〔中略〕学ぶべきものを学ばなかったということにあります。すなわち、ちゃんとした経済学や哲学を学ばなかったことで、若者たちは自分がフリーター予備軍として取り扱われているのだということを自覚できないようになっているのです。これは、大学が社会に対する批判の目を養うための教育を放棄することで、体制に唯々諾々と従う労働者をつくり出すシステムだといえます。
(的場P.213、強調箇所は原文傍点。〔 〕内は引用者の補足)

石原慎太郎都知事が作り出した、人文学部でもとりわけ文学系の専攻を捨て去ったクビ大はまさしく「体制に唯々諾々と従う労働者」の生産工場でしょう。だから私はこの大学を是とすることができないのです。それでも首都大学東京がいいという受験生や学生の意志は否定しません。「人間至るところに青山あり」「住めば都」という言葉もあります。どうかご健闘を。

参考文献
的場昭弘マルクスだったらこう考える』光文社(光文社新書)、2004年 ISBN:4334032818