さくら さくら 桜 咲く良

今日は2時半まで寝ていた。否、「寝ていた」と記すのはやや語弊がある。目覚し時計をセットせずとも午前10時前には目覚めていたのだが、時に任せて不貞寝を続けていたのだった。

目覚めて、半ば習慣化した行動なのだが、テレビのスイッチをつけた。この時間に放送していたのはワイドショーであった。番組内で報じていたのは、皇居の西側にある千鳥ヶ淵の桜が満開だったということだった。

私という人間は、別段花や草木を愛でるほど花鳥風月に対して情感豊かな人間ではない。まして、4月にいい思い出のない人間にとって、春を象徴する桜は寧ろ嫌なものである。それは昨晩、友人たちと豊島区内の神田川沿いを歩いて桜を見歩いたときに確認済みである。

しかし、私は敢えて桜を見に出かけた。それは「花見」というよりも「頭を冷やすため」と言った方が正確である。

私は前日、珍しく友人とけんかした。私は自分でも短気な人間だと思うが、それでも年中他人と揉めるほど愚かでもない。親しい友人と口論になるのは中学以来のことではないかと記憶している。

私は千代田線で大手町駅まで行き、そこから皇居の大手門方面に歩いた。時刻は午後5時半を回っていた。大手濠から半時計回りに皇居周辺を進み、竹橋、北の丸、代官町と行く。

桜並木は竹橋付近から始まっていた。もっとも、花盛りはテレビが言う通り、千鳥ヶ淵から半蔵濠のほとりである。内堀通りと半蔵濠に挟まれた緑道である千鳥ヶ淵公園では、企業の宴会と思われる会社員の酒盛りが、6時の時点で既に始まっていた。

私は少し足を引きずりながら歩いていた。それは前日に、十分な準備運動もないままに駅構内を全力疾走したりして(準備運動がないのは、この場合当然だが)、左足ふくらはぎの同一箇所を2度も攣ってしまったからだった。筋肉痛は未だに残っている。「歩くのが速い」と友人に言われた私の速力も半減してしまっている。

桜の並木は大体半蔵門の手前で終わっていた。私はそのまま内堀通りを南下し、三宅坂交差点を国会議事堂の正門方面へと進み、国会議事堂前駅から再び千代田線に乗って帰った。午後7時を少し過ぎた頃だ。

桜はやはり嫌いだと思った。少なくとも独りで見ても何も面白くないと思う。

友人には厳しいことを厳しい口調で言いすぎたと思った。しかし、私は謝らない。たとえ親友に対してでも、折れてはやれない場面は必ずあると思う。