(大学受験生を応援⑭)受験生だってクリスマスしたい?

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遅ればせながら、フローエ・ヴァイナハテン!(独語で「メリー・クリスマス」の意)*1


私は、24日はハードディスク・ドライヴのポータブル・プレイヤー*2と今さらながらプレステ2を買うために都内を奔走していました。秋葉原で価格の比較をしたのち、結局ビックカメラの方が安いという結論に至り、ビックカメラ有楽町店に移動。


HDDポータブル・プレイヤーは有楽町店で購入したのですが、肝心のプレステ2は同店舗では品切れ。また入荷の予定も未定とのこと。しかし店員から「池袋の本店ならあるかもしれないが、確認できない」という情報を聞き、自ら池袋本店に電話。時期柄、有楽町店同様池袋本店も混雑していてなかなか電話が繋がりませんでしたが、ようやく繋がり、在庫があるとのこと。私は有楽町駅から東京メトロ有楽町線に飛び乗りました*3


プレステ2を池袋で購入した時点で時刻は既に午後8時半。帰宅したのは9時を回っていました。有楽町では東京ミレナリオの開催で、たくさんの人手(特に男女連れ)がありましたが、私は目もくれずに電気店のクリスマス商戦に踊らされていました。そんなクリスマス・イヴでした。


25日は新聞サークルの印刷作業のあと、午後7時から私たちの事務所で男4人でケーキを囲みました。「タバコを買おうとコンビニに入ったら、安かったから買ってきた」という先輩の粋な計らい(?)です。そのあと高田馬場駅前に移動し、しゃぶしゃぶとすき焼きの食べ放題に行きました。そんなクリスマスでした。


全く女っ気のない2日間でしたが、個人的には楽しめました。私は毎年地元にいた時からこんな感じだったので、特に苦言を呈する余地もないわけですね。


物悲しかったのは去年でした。去年の私は大学の友人も少なく、長期休業は孤独そのものでした。去年は25日に帰省したのですが、24日は大学のPC室でレポートを書いていました。窓の外に広がる灰色の曇り空が、私の心象と一致していて嫌味でした。それから比べると、今年の方が何倍もマシでした。


一昨年のクリスマスは、いわずもがな受験生でしたので、学校の冬季講習のあと自習室で勉強していました。そのあと9月14日のコラムでも言及した友人が「開成山公園のイルミネーション*4を見に行こう」というので、野郎2人してイルミネーションを、あるいは地元の馬鹿な高校生カップルを拝みに出かけました。そんな中、イヴェントにボランティアとして参加していた後輩(女の子)に発見されたときは、なかなかいたたまれませんでした。


クリスマスといえど世間一般では平日と同じですので、子供の時分ならまだしも、成人してしまった今となってはこの日を特別視する向きもありません。日本型資本主義が「クリスマス」と称して私たち消費者に金を使わせようという魂胆は言うまでもありませんし、大概の人がとっくに気付いていると思います。ただ、それでも浮き足立ってしまう愚かな人たちを観察するのは、全く嫌いじゃないですが。


逆に言うと、「浮き足立っている人たち」を観察するのが好きな私も、やはり少なくとも幾ばくかは「浮き足立っている」と言えるのでしょう。こういった妙なばかばかしさが「クリスマス」という日の魔力であって、その魔力は受験生にだって影響します。


ならば、ちょっとくらい浮かれてしまってもよいと思います。今年の私だって、ローストチキンではなかったけれど、鶏肉は食べました。浮かれていたかどうかはわかりませんが、その調理をしている最中にはねた油で珍しくやけどをしてしまいました。マンガに描かれそうな典型的な受験生は「俺には盆も正月もクリスマスも関係ない!」とか言いそうですが、日本人ですもの、四季の移ろいを堪能できない受験生生活は悲しいと思います。ケーキや、七面鳥や鶏のローストを食べるくらいの余裕は許されるでしょう。


考え方を変えてみますと、こんなことが言えるのではないでしょうか。入試直前で受験勉強も佳境のこの時期ですら、あるいはこの時期だからこそ、クリスマスを楽しむ余裕こそが必要ではないかと思うのです。


受験生であった当時の私は、多分はたから見ても余裕しゃくしゃくでした。私自身も迫り来る入試に対して焦りを感じてはいませんでした。部活を引退してもほぼ毎日部室に現れる先輩を、どの後輩が「この人は大学に合格する」と思うでしょうか。ほぼ全員が「この人は大丈夫なんだろうか?」と考えるが必定で、合格後に後輩に訊いたら、うまくお茶を濁されました。事実第1志望ではなかった明治大や中央大に落ちているあたり、全然大丈夫じゃなかったわけで、今振り返ってみると、ずいぶんアホな受験生でした。


それでも、私にはこういう友人がいます。福島県は土地柄東北大学を第1志望にする受験生が毎年多いのですが、彼もその1人でした。「東北大ならどの学部でもいい」と言うくらいの思い入れで、部活も3年になると同時に早期引退するという準備のよさを見せていました。成績は私なんかよりはるかによく、学年400人のうち、文系クラスが弱かった私の学年において上位50人に入ることは稀ではありませんでした。そして何より、プライドの高い奴でした。


しかし彼は東北大には合格しませんでした。浪人して再び東北大を受験しましたが、やはり駄目でした。そして私が最も驚いたのは、彼が東北大からランクを2、3落とした大学に入学したことでした。一般的に東北大受験生が滑り止めとするような大学に彼は不合格だったのかどうか詳細は知りません。私たちからすると「何であいつが……」という感じでした。


ただ私が思い出せることは、彼は高校3年時、常に焦っているように見えました。余裕がなさそうでした。周りが見えていなさそうでした。その傾向は受験が近づけば近づくほど顕著になっていったように思います。彼は前述のような様子だった私に「おめえ勉強してんのかよ?」と繰り返し尋ねてきましたが、逆に私は彼に「危うさ」をしきりに感じていました。


私と彼は実に好対照な受験生でした。結果まで対照的になるとは何とも皮肉です。私は調査したわけではないので、どちらのタイプの受験生が大学に受かっているのかはわかりません。しかし前述してきたような経験上、私は余裕を持っているべきだと思います。ことわざに「急いては事を仕損じる」というように、急いで慌てて冷静さを欠いては的確な判断もなしえないのです。そして冷静さを保つためには、余裕であることがまず肝要なのです。


このコラムでもいつか「来年のことを考えたら、鬼が笑いますね」と私に言った後輩がいたことを紹介したかと思います。しかし私なら後輩にこう言います。「鬼ぐらいにゃいくらでも笑わせてやれ。最後にお前が笑うんだから」。私自身がこうした厚顔無恥のずうずうしい人間なのですが、その私が結局第1志望にだけ合格しているので、そういう考え方も大学受験にも必要なのかなと思っています。


あ、でもそろそろ入学試験の過去問は解き始めないと手遅れになりますよ。私も冬休みから始めましたが、遅すぎたと実感しています。過去問対策が遅れてしまっている人は、今から「慌てて」始めた方がよいでしょう。


最後に付け加えておきますが、余裕がなさすぎた奴が不合格だった例を私は目撃していますが、余裕がありすぎた奴はもう当然のごとくどんどん落ちています。前者と後者では、不合格の理由が甚だしく違いすぎるのは、もはや論じるまでもありません。望ましい受験生のスタンスとしては、前者と後者の中間で、やや前者よりであることなのかもしれませんね。


というわけで、本コラムも年内最後の連載になってしまいました。次の土曜日は2005年の1月1日です。例年私は元日には東京の自宅にも実家にもおりませんので、若干遅れることを予めご了承ください。それでは受験生の皆様も、そうじゃない皆様も、どうぞよいお年を。(4023字)


To be continued to 20050101 (Frohes Neujahr!) ⇒ 20050108......

*1:本稿の掲載は25日分ですが、実際は27日に掲載しました。最近とみに遅くてごめんなさい。

*2:HDDポータブル・プレイヤー。PCに使われているハードディスクと同様のものに大量の音楽データを取り込んで再生する。i-Podが有名。

*3:東京在住の方ならご存知でしょうが、ビックカメラ有楽町店はJR有楽町駅の目の前にあり、東京メトロ有楽町駅は同店に直結しています。なお私はこの時初めて有楽町線に乗車しました。電車も駅の造りも千代田線と似ていて兄弟のような気がしました。

*4:福島県郡山市の市役所前に広がる公園です。毎年クリスマス期には園内にイルミネーションがともされ、当日には何らかの催し物も行われます。