(大学受験生を応援⑫)どこに住み、どこの大学に行くべきか

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気がつけば、センター試験まであと1ヶ月ちょっとになってしまいました。受験生諸氏におかれましては、いかがテンパって受験勉強なさっておられますでしょうか。


本コラムもセンター試験まであと119日」というタイトルとともに初回を始めて、1週休載したものの、なんとか12回を数えるまでになってしまいました。公開され、書き溜められた原稿量も相当になっています。私はこれらの原稿を来年度頭をめどに自費出版による書籍化を考えています。詳細は未定ですが、今年度私には大学から給付された、返済不要の奨学金がありますので、これの一部を費用に充てようかと考えています。私に給付した大学当局も、遊んで使われるよりは、学術的な目的に使われた方が本望でしょう。でも一応出版費用を回収したいとは思っているので、皆様買って下さい。


学術や学問とは、別に学校の教室だけで行われる性質のものではないのです。むしろ、自発的にまた主体的に学ぼうと意欲ある者は、学校の外に出て課外活動にエネルギーを費やす学生は少なくありません。また私の界隈には課外活動ばかりに力を入れすぎて、4年で卒業できなくなった(しかも5年でも出られない)学生も稀でなくおります。間違いなく私も、大学に通う第1の理由が「授業に出席する」ではないことだけは確かです。


大学生における独自の課外活動が、多く学生との交流によるところが大きいのは言い得ると思います。それは同じ大学の学生同士のみならず、他大の学生とも交流して意見交換なり、議論なりをするのが素晴らしい課外活動の秘訣と言えます。


『偏差値50から早慶を突破する法』(光文社)*1の著者である受験評論家、精神科医和田秀樹氏も同様のことを言っています。すなわち、早慶のブランド力の1つは立地のよさだというわけです。大学が都心にあれば他学生との交流も望めるし、また種々の社会経験も可能だというのです。


では和田氏も誉める両校の立地を検討しましょう。早稲田大学があるのは新宿区です。最寄駅は東京メトロ(旧・営団地下鉄早稲田駅から、西早稲田・戸山キャンパス共に徒歩5分程度で着きます。またJR山手線、西武新宿線高田馬場駅からも徒歩20分程度ですので、新宿や渋谷、池袋などにアクセス至便ではないものの、十分便利とは言えるでしょう。


また慶應義塾大学は、私は実際に行ったことがないので実感が得られないのですが、都営三田線、同浅草線三田駅、JR山手線、同京浜東北線田町駅から概ね徒歩10分以内には着くようです。山手線という「万里の長城」に近い分、慶応大の方が都心にアクセスは便利かもしれません。


しかしこれらの比較は「本部キャンパス」の所在地によるものです。もちろん両校とも遠隔地に別キャンパスを有しています。早大は埼玉県所沢市人間科学部スポーツ科学部の所沢キャンパスがあります。しかし西武池袋線小手指駅からバスで15分という山の中だそうです。東京都心はおろか、本部キャンパスへのアクセスはかなり不便で「『都の西北*2の西北*3と、所沢キャンパスの学生たちは自虐的ギャグを言うそうです。


また慶大は、医学部と看護医療学部も有しており、これはJR中央総武緩行線信濃町駅から5分ですが、各学部の学生が2年次までの2年間(一部1年間)を過ごし、理工学部の学生は4年間を過ごす日吉・矢上キャンパスは神奈川県横浜市で、最寄駅は東急東横線日吉駅です。またSFCの略称で有名な、総合政策学部環境情報学部の湘南藤沢キャンパスは神奈川県藤沢市です。小田急江ノ島線相模鉄道いずみ野線横浜市営地下鉄湘南台駅が最寄駅ですが、そこからバスで10分。早大の所沢キャンパスに負けず劣らず「田舎」のようです。


私は、周りに何もない「田舎の」大学に行きたいとは全く思いませんでした。現在在籍する大学も事実都心に所在し、その観点から志望校を選択したと言えなくはありません。例えば東北大学はきっと素晴らしい大学だと思いますが、それでも4年間を「東京に比べれば田舎の」宮城県仙台市で過ごすのは嫌でした(もっとも、受験しても絶対合格できなかったとは思いますが)。動物学的な意味でない「色んな人種」が集まってくるのが、東京にある大学の利点だと思います。私の交友関係が多岐にわたっているのは、もうご存知かと思います。


私の言う「田舎の大学」とは、埼玉や千葉、神奈川県にあるものは全て該当します。その他、八王子市や立川市など、東京都多摩地方と呼ばれるところにある大学も、「田舎の大学」だと思います。それらの大学の学生は、学生生活がキャンパスとその周辺で完結してしまい、家と大学の往復だけで1日が終わってしまうのです。そこに、例えば他大生との交流はありません。もちろん、全員が全員そうであるとは言えないでしょうし、私もまた毎日他大生と付き合いがあるわけでもありません。しかし総じて私の方が、「田舎の大学の学生」よりもそういった機会に恵まれているとは胸を張って言えます。


先日私は、ある労使問題の集会に参加しました。そこで出会ったのは、2人の東大生でした。1人が5年、もう1人が11年生でした。さすがに私も5年6年程度では驚くに値しないとは思っていましたが、11年とは「さすが東大!」と畏れも入りました。彼らは学内のある問題に深く関わってしまったために、自発的に大学に残ったと言います。昨今では学生運動に対して否定的な意見と大勢を占め、否定的な風潮に侵されていると感じます。しかしそれを否定することは、すなわち「主体的に行動すること」までも否定することに同義であり、私は首肯しかねます。今の学生が主体的に学ばなくなったとするならば、それは学生運動が長らく下火になっていることと無関係ではないでしょう。そういったことも含意して、この東大生たちと非常に興味深く話をしました。


私は大学と家が遠いということは、この『日々徒然』においても何度かお話したかと思います。しかしそれゆえに定期券で、電気とオタクの街・秋葉原や音楽の街・御茶の水、世界最大の古書店街・神保町、サブカル文化に強い中野に行くことができます。切符との併用であれば、山手線の各駅には200円以内で到達可能です。こういったことは、千葉、埼玉、神奈川の各県や、東京都多摩地域の大学に通う学生にはできないことだと思います。


私の小学校からの幼なじみである友人は、現在埼玉県熊谷市立正大学に通っています。同大は前半2年が熊谷市、後半2年が東京都の大崎なのですが、彼は「早く東京に行きたい」と、私に会うたびに言っています。地元が田舎で、進学先も「田舎」だということで、飽き飽きしているようです。熊谷市は、駅周辺はある程度拓けた街だそうですが、彼がキャンパスまで通う道は田んぼばかりだそうです。私が「(私たちの地元である福島県郡山市の)大槻町の高速道路の向こうみたいな感じか?」と尋ねると「そんな感じだ」そうです。つまり、山の端から低層住宅と田畑が広がっている、そんな牧歌的風景が、彼のキャンパスの周りには広がっているようです。先日東京に来た時も、山手線を1周してから帰ったそうです。


私が受験生の時に『大学図鑑!』ダイヤモンド社)で読んだことがあるのですが、茨城県つくば市にある筑波大学は、全国の大学で学生の同棲率が1位だそうです(私には真偽不明です)。同大のウェブサイトを見ても、東京駅から延べ約80分、JR常磐線の3駅からもバスで25〜40分だそうですから、間違いなく山野を切り開いて造成されたキャンパスだということがわかります。東京はおろか地元茨城の街にも出にくい学生たちがすることと言ったら、男女の恋愛しかないみたいです。なんと「不健全な」学生生活だと私は思いますね。東京教育大学時代と同様に東京都の大塚にあったなら、状況も違ったでしょうに。まあ、常磐新線ことつくばエクスプレスが来秋開業し、秋葉原〜つくば間を最速45分で結ぶようになるので、筑波大生の「都会デビュー」も推し進められることになり、「健全な」学生生活を送られるようになるでしょう。


80年代以降、手狭になった都心のキャンパスを捨てて、郊外に移転する大学は増えていきました。その先駆けとなったのが中央大学で、元々はお茶の水という超一等地にありましたが、後楽園の理工学部以外は八王子市に移転してしまいました。しかしその後、東大を抜いて1位だったこともある司法試験合格者が、04年のデータでは、1位の東大と早大(同数で226人)以下、慶大、京大に続く第5位で、慶京の後塵をも拝してしまっています。すなわち、郊外移転で学生の質が下がってしまったと言えます。大学合格偏差値も、MARCH*4学習院大の中では最後尾に位置してしまっている記憶があります。近年は大学院教育が重点化され、都心回帰を目論む大学も少なくありません。中大も、社会人のための大学院を東京都市ヶ谷に設置しました。都心で仕事を持っている社会人のための大学院が、新宿から1時間もかかる八王子市にあっては無意味だからです。


現在でも都心に居を構える大学を例示するならば、有名どころですと前述の早慶のほか、上智大学は大半の学部で4年間変わらず千代田区麹町で過ごせます。キャンパスはJR中央線、同中央総武緩行線東京メトロ丸の内線、同南北線四ッ谷駅の目の前で、交通に至便です。立教大学は最寄駅が池袋と、超一等地です(一部学部除く)。青山学院大学東京メトロ銀座線、同千代田線、同半蔵門線表参道駅が最寄で、渋谷区渋谷にあります。渋谷駅からも20分程度と徒歩圏内です。法政大学は千代田区市ヶ谷にあります。JR中央総武緩行線東京メトロ半蔵門線と同南北線が併走する飯田橋駅市ヶ谷駅の間にあります*5。利用できる路線が多いということは、それだけ各所へのアクセスが容易だとも言えます。中央総武緩行線は新宿に直通ですし、有楽町線を使えば、銀座へは乗り換えなしで行けます。


しかしこれらの大学は、いずれも学年によってキャンパスが異なる「学年割れ」か、学部によってキャンパスが異なる「学部割れ」の大学ですので、お気をつけ下さい。特に後者は間違えたら悲惨です。例えば、東京都世田谷区に大半の学部が集まる東京農業大学ですが、唯一生物産業学部だけは、なんと北海道網走市にあり、4年間そこで過ごします。聞いた話では、それを知らずに入学してしまったという学生がいたみたいです。ここまで極端な話じゃなくても、本部キャンパスと通うキャンパスを間違えて下宿を選んでしまい、わざわざ都心から2時間かけて、しかも高い家賃を払って、田舎に通わなければならなくなったという話は、稀ではないようです。


その点、明治大学は前半2年の和泉キャンパスは東京都杉並区にあり、新宿から10分弱と交通至便です。最寄駅はその名も、京王本線明大前駅です。同駅は京王井の頭線も乗り入れており、同線は吉祥寺駅と渋谷駅を結ぶ、まさに若者のための路線です。また和泉キャンパスからは、本拠地である駿河台キャンパスと電車の乗り換えなしで行くことができます*6。しかし同大も理系は神奈川県川崎市の生田キャンパスで4年間を過ごしますので、お気をつけ下さい。


しかし、都心キャンパスの最右翼は、何と言っても東京大学でしょう。教養学部がある渋谷区の駒場キャンパスと、それ以外の学部が集中する文京区の本郷キャンパスです。両キャンパスとも、相当広いです。なのに学生数は少ないので、ことさらに広く感じられるようです。あの狭いところに50000人の学生がひしめく早大の5分の1の程度しかいないと聞くので、早大や慶大がいくら「打倒東大!」標榜したところで、東大生に勝てないのは何となく納得のいく気がします


駒場キャンパスは、前述の京王井の頭線駒場東大前ですが、渋谷にも歩いて20分程度で行けるらしいです。遊ぶにも好立地の東大です。本郷は最寄駅が東京メトロ千代田線・根津駅、同湯島駅、同南北線東大前駅(また名前入りの駅名だ!)、同丸の内線、都営地下鉄大江戸線本郷三丁目駅です。但し、これらの駅同士は結構離れています。キャンパスが広大すぎて、建物によって最寄駅が違っているのです。


私は先日散歩がてら、東大駒場キャンパスのうち、農学部を擁する弥生地区に潜り込みました。日曜日の夜7時でした。本当にデカかった。山手線の輪の中の、この一等地にこれだけ広大な敷地を持っているとは……。建物と建物の間がとても幅広いのです。大樹の植えられた遊歩道になっていました。私は侵入するまでに手間取り、出るのにもまた一苦労でした。私は根津駅を目指して歩いていたのに、やっと見えてきた東京メトロロゴマークは、東大前駅のものでした。私の大学は、学生は多いが土地は狭いという典型的な私立大学ですので、この広さには本当に畏れ入りました。東大に入学するということは、世間的な評判のみならず、最高の学問環境をも手に入れることができるということなのです。私の中で、東大の神性がまた一段と高まってしまいましたよ、ホント


大学の立地とは、偏差値だけで計れない大学の魅力の1つに数えられてもよいものだと私は思います。それに気づいた東洋大学は、かつては「学年割れ」だったところを来年度から人気の高い主要学部を東京都文京区の白山キャンパスに集めた「学部割れ」に転換しました。それは大学経営の上でも重要な戦略でしょうし、また学生の視点からも「都会で学ぶ」ことは前述のようにとても有意義です。本部が八王子市にあるクビ大なんかは(その点でまず不利なのに)、もうどんどん淘汰されていくでしょう。


もちろん、「田舎が好きなんだ。都会は騒がしくて好きじゃない」と言う人は私の周りにもいました。私はその貴重な意志を否定したいとは思いません。しかし、同じ関東地域に進学する、とりわけ同じ東京都に進学するのであれば、人生のある一時期をこの価値観と情報のカオスである東京都心に生きてみるのも悪くはないと思います。


私の大学の先輩は、私に名言をもたらしました。「大学ってのは、『バカ』が『バカ』のまんまじゃいけないんだ。『自我が崩壊する』ような経験をして、つまり『既存の価値観が打ち壊される』ような経験をして、何かしらに目覚めなければならないんだ」。このような趣旨の話をしていました。ならば私の「自我の崩壊」は、まさに今年2004年であると思います。だからこそインターネット上でこのような文章を書き続けているのかもしれません。こういう「自我の崩壊」は、「田舎の大学」だったら私は得られなかったと信じています。(6898字)



To be continued to 20041218......

*1:isbn:433405160

*2:早稲田大学の校歌は「都の西北 早稲田の杜に」と唄い出すことから。

*3:埼玉県所沢市は、東京都新宿区から見て北西の方角にある。

*4:同程度の合格偏差値である、明治(Meiji)、青山学院(Aoyama)、立教(Rikkyou)、中央(Chuou)、法政(Housei)の各大学の頭文字を並べた総称。

*5:その他、市ヶ谷駅には都営地下鉄新宿線飯田橋駅には東京メトロ東西線が乗り入れている。

*6:京王線と、都営地下鉄新宿線相互直通運転を行っているため。この場合の駿河台キャンパスの最寄駅は、同線神保町駅小川町駅となる。但し、新宿駅JR中央線に乗り換えた方が早い場合もあると思われる。