(大学受験生を応援④)模試と偏差値の有効活用法

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平成17年度センター試験(05年1月15、16日実施)の出願期間が今週10月4日(月)から始まりました(締切は来週15日金曜日)。いよいよ受験生諸氏も「自分は受験生なんだ」という実感を、半ば強制的にでも、持たされていることでしょう。しかし私は、どこか模擬試験の申し込みシートを書いている感覚とあまり変わらないような気持ちで、申し込みをした記憶があります。浪人生は尚のこと、現役生諸氏もセンター試験当日になればご理解いただけると思いますが、この時期になるとそれまでに模試を受けすぎてしまっていて、本番なのか、模試なのか、感覚が麻痺してしまうんですよね。


というわけで、今回は前々回に予告いたしました模試と偏差値の有効活用法について、お話ししたいと思います。


前々回私が模試と偏差値を「こき下ろした」時、以下のようなご意見を頂戴いたしました。

偏差値は絶対ではないが参考にはなる。こき下ろすとはいかがなものかと。ちなみに東大の理系で模試で1位をとろうものなら理Ⅲ以外なら滑りようがないです。友達に東大Aで東大へ入った者が3人いますが次元が違うらしいです。


意図を十分にご理解いただけなかった私の文章力のなさを嘆くのはさておき、この方の仰る通り「偏差値は(中略)参考には」なります。


いくら私が「偏差値なんて気にするな!」と申せど、結局大学入試というものは、いかに他の受験生よりも良い点をとるかという、競争というよりはもはや戦いであります。それが競われるのは入試本番のたった一度切りなのですが、その時までに、全受験生における自分の順位というものを知りたいと思うのは、受験生ならば当然の心理といえます。


それは何故なら、例えば現在国公立大学は前期・後期(大学によっては中期)は1校ずつしか受けられないからです。よって、様々な事情で浪人が許されない受験生にとっては、確実に合格を勝ち得るために、確実に合格しそうな大学を選択しなければならないこともあるからです。最終判断はセンターリサーチ*1を待つとしても、それまでにある程度の照準を絞って勉強しなければ、対策が遅れる場合も出てくるため、やはり偏差値にご登場いただかねばならないのでしょう。よって思うに、この偏差値というものは、国公立大学受験者にとって、より大きな影響力を与えるものでしょう。


私自身の経験を申せば、私は結果として私立大学しか受験しなかったために、念頭に置いていたことは「入試で7割を取る」だけでした。私立大学とはその性質上、定員以上の合格者を出すために、合格点のボーダーラインを超えれば必ず合格ですので、そのボーダーラインが7割の正答率だというわけです。多くの予備校や評論家の研究などから、この定説は割に信用に足る数字だと思われます。私が合格した大学は6割5分と言われていました。よって私は大学別模試や過去問で6割5分をとることだけを考えており、そういう意味では、総合模試の偏差値や点数はあまり気にしていなかったというところはあります(といっても、一応は国立大学も受けようとは思っていたのですけれど)。


とはいえ私のような私立大学受験生はむしろ稀な方で、一般的にはプレも総合も、全ての模試の合格判定に一喜一憂させられるものです(実際は私だって一憂ばかりしてました)。結局、受験生が模試の合格判定や偏差値に揺らがないことはないのです。それを経験者として知っているからこそ、私は前々回に「偏差値神話をぶち壊」したのであります。実際にはぶち壊されていないのですが、それをまず試みることが重要だと思われます。そして、同じ偏差値に揺さぶられることも、その事実を知っていて揺さぶられるのと、知らずに揺さぶられるのとでは全く意味が違ってきます。現浪含めた多くの受験生は、存外この事実に気づいていないように思われます。


私は確かに「偏差値や模試の結果なんて気にするな!」と申しました。その意見は今も変えるつもりは全くありません。しかし無視をしろとは言っていない。無知であれとも言っていない。自身満々なのはとても素晴らしいことだと思いますが、自信満々な井の中の蛙では目も当てられません。自分の立ち位置がわからないのはいざ知らず、立っているのか座っているのか(つまり自分は真の意味で受験生としての自覚があるのか、否か)わからないのは、もはやバカとしか言いようがありません。しかし私の現役当時、周りには後者が多かったように思い出されます。


せっかくお金と時間を費やして模試を受ける(受けさせられる)以上、フル活用してやらない手はありません。フル活用した上で「気にしない!」と断ずるのが、賢明な受験生というものです。


まず、模試を受けたら、すぐ自己採点をいたしましょう。「何を今さら」と呆れられる受験生もいらっしゃるでしょう。しかし、あなたのやっているのは本当にただの『自己採点』ではないでしょうか? 私の言う自己採点とは、つまり模試の復習です。ただ解答の正解不正解を確認して点数を出し、友人と買った負けたのじゃれ合いをするだけでは、愚かとしか言いようがありません。


模試を受けた直後に自己採点、つまり復習をすれば、解いた記憶はまだ鮮明に残っていますから、不正解の問題を徹底的に再検討するのです。なぜ間違えたか、どのように間違えたか、どうすれば間違えなかったか、などなど。記憶が鮮明であればあるほど、間違えたときの印象は鮮明に残ります。受験評論家で精神科医和田秀樹氏は自著の中で以下のように語っています。

では何のために模試を受けるのか。それはあくまで暗記量をふやすためである。模試を受けると、1日のうちに何十問もの問題に当たるわけだが、なかには知らないこと、わからないことが出てくるはずである。その答え、もしくは解法を即座に覚えてしまうわけである。模試は、たいてい終わるとすぐに解答が配られるから、帰りの電車の中でも、不正解だったところをチェックして丸暗記してしまうのである。(『偏差値50から早慶突破』光文社・知恵の森文庫 p.190〜191)


私は、間違えるために模試を受けると断言してもいいと思っています。模試で間違って、その解答を暗記すれば、もしその問題や類題が本番で出題されたなら貰いものです。ですが大学入試とは、そういった貰いものを数多く貰うのが、勝利の秘訣なのです。前述の引用文に続いて、和田氏はこう言います。

これは、ふだん参考書や問題集をつかっているときよりも、ずっと覚えやすいはずである。私の経験からいっても、試験中にかなり考えたことだから、すんなり頭にはいってくる。また、そうして覚えたことは記憶の定着もよい。人間の脳は、「あ、そうだったのか!」という驚きや悔しさなど、感情とともに覚えたことは忘れにくいのである。(上掲書、p191)


医師でもある和田氏が、人間の脳のメカニズムを交えた論考を挙げることは、たいそう説得力を持つと思いませんか? ですが、ゆえに、記憶の定着率を上げるために自己採点をおろそかにすることはできないのです。今の受験生ならば、最大で国語、英語、数学1A、2B、3C、社会2つ、理科2つの計9科目ですから、正直、模試後の1時間程度では不可能でしょう。1教科1時間をとるとしても、9時間です。私のように毎回不正解の多い受験生はもっと時間が必要かもしれません。


実は受験生当時、私はこの自己採点→復習というメソッドをないがしろにしていました。日本史や、得意の英語こそ復習をきっちり押さえましたが、不得意の数学になると及び腰になっていました。結局できないものをできないままに放置してしまったから、現在の私があるわけで、この点は非常に後悔しています。だからこそ、これから受験に向かう諸氏に喚起しているわけなのです。


また、全受験生(特に、自分と同じ大学を志望する全受験生)の中で、自分の順位を認識することはまたとなく重要です。ここで、たとえビリだとしてもただ嘆くだけはいけない。そこからいかにして合格ラインまで登っていくかをストラテジーとして考えなければいけません。また、あまり申し上げたくはないのですが、特に国公立大学受験生はこの段階で志望校の変更を考えなければならない場合もあるでしょう(個人的には、最後の最後まで必死に食らいついてほしいのですが……)。結果が良かれ悪かれ、それをモティヴェーションとして勉強に結びつけられればよろしいのです。私が「気にするな!」と申し上げたのは、「結果に絶望してやる気をなくすな」ということを含意してのことだったのです。ポジディヴに意識を向けろということなのです。


私が批判したいのは、模試の結果が悪かったのに、全く勉強している様子のない受験生のことです。「勉強してる」と繰り言すれど、私が見ていて同じような部分を間違え、また生活の様子を聞いていても、本当に受験生の勉強方法を採用しているようには思えない受験生が、私の周りに多くいました。私は、彼らを受験生だとは思っていませんでした。受験に身を浸せば浸すほど見えてくると思われますが、ある人物がどれだけ受験生としての時間があるかないかは見ていればすぐわかります。そして後者はすべからく芳しい結果は得られていません。逆にそれまでは遊び呆けていた学友が、ある時期を境に態度が変わり、結果大学合格を手に入れたという例も私は目撃しています。


今日で、センター試験まであと98日でしょうか。いよいよ100日を切ってしまいました。何事かをなすには十分すぎる時間が残されているとは思いますが、何もしなければ何もしないまま無為に過ぎてしまう時間です。無為に過ごす受験生とは、私が言う、自覚のない受験生です。立っているのか座っているのかわからない受験生です。あなた自身はどちらでしょうか? 私は願わくば賢明なる受験生だと信じたいのですが、私のこんな雑文をお読みいただいているならば、もしかすると自覚をまだお持ちでないかもしれませんね(失礼千万!)。でもそんな受験生を啓蒙するために私は本稿を執筆しているわけで、結局私の意図からは外れてはいません。今この瞬間から自覚を持てばいいのです。自立的にせよ、他律的にせよ、恐らくは既にスタートラインには立ってしまっているはずですので、あとはダラダラ走るか、全速力120%で走るかは、あなたが自覚をもって決めるべきことです。(4297字)


To be continued to 20041016......

*1:センター試験の自己採点を元に、各予備校が大学の合格判定を出すもの。『センターリサーチ』という名称自体は登録商標の可能性があるが、本稿では便宜上総称として用います。