『24時間テレビ』は必要か?

今年で27回目を数える日本テレビ24時間テレビ』の放映は先々週土日(8月21、22日)であった。折りしもアテネ五輪で日本中が盛り上がっているさなかであり、日本時間21日深夜(22日)は、日本が競泳男子400mリレーで初の銅メダルを獲得したまさにその時であり、今まで最も影の薄い24時間テレビだった印象がある。私を含めた日本国民の大半は、連日試合観戦で夜更かしをしていたのだ。年1回という深夜帯の放映も、今年ばかりは物珍しさが薄れていた。また21日の番組開始時間も、野球日本対台湾戦で15分遅れたことも、今思えば日本テレビの運の無さはそこからだった。午後8時から、おなじみのフィナーレまでの視聴率は25.1%というが、全体の平均視聴率は11.7%とは過去27年間の中でも低い方なのではないか。

私は、今回の24時間テレビはほとんど見ていない。それどころか、ここ数年まとまった時間を通して見ていない。以前から同番組の理念には賛成しかねる部分があったからだ。それは、身体障害者*1が『弱者』として映されていることである。そして、27回目の今年もそれは、私が合間合間にわずかながら見た限りでは、相変わらずだった。恐らく全体でも相変わらずだったと言って差し支えないだろう。

しかも『年1回』というお祭り的番組制作にも疑義を呈したい。応援という名目でタレントは、難題に挑戦する(挑戦させられている、という可能性を否定できる人はいないだろうが)障害者と短かからぬ時間を共有する様子が放映される。が、所詮1年以上の時間ではない。またカメラクルーが同行しない場所ではどうなのだろうか。忙殺されるタレントは自分の時間を費やして、個人的に彼らを訪れるのだろうか。

私はこの番組を、出演タレントの、或いはテレビ局の、偽善だと感じてきた。そして無論、満足げにテレビの前に座って見ている私達視聴者の偽善のかたまりだと感じてきた。この考え方には、私の身体障害者に対する姿勢が大きく関っており、批判する向きの人もいるだろう。だが私の考え方はごく主観的なもので、やや論旨からずれているので脇に置いておきたい。一応つけ加えておくと、私が通った小学校は近くに県立聾学校があり、交流も割と盛んに行われていた。幼少期にそういった経験がない人達よりは、一定以上進んだ彼らに対する理解があると自負している。

身体障害者に対する世間の姿勢は、『五体不満足』の著者・乙武洋匡氏の登場以降、わずかでも良い方向変わってきていると私は思う。しかし同番組においては彼は、未だ『障害者』として扱われている。というのも、私の記憶の限りでは、彼がこの番組に出演したという記憶がないからだ。

乙武氏は健常者*2以上に『普通の人』である。彼は早稲田大学政治経済学部の出身であるが、1浪している。その浪人中、彼は1日10時間の受験勉強をしたという。この逸話を聞いた当時受験生の私はひどく感銘を受けた。だが、一般的には難関と言えど現実的には、早稲田政経出身の人は文字通り掃いて捨てるほどいるのだ。だから彼が浪人して政経に入学していようが、それは『普通のこと』である。私が感銘を受けたのも、当時の私には(あるいは現在でも)、障害者差別の考えがあったのかもしれない。

やや話が脱線してしまったが、私が結論付けたいことは、もはや障害者が弱者である時代は終わろうとしているということである。彼らに『愛』という名の『偽善』を差し向けることは、時代遅れのマンネリなのだ。その『アイ』は『愛』などではなく、無意味な『哀れみ』の『哀』にほかならない。

『愛は地球を救う』と言うならば、もうすぐ30年目に差しかかる番組は(やっと)世界に目を向けるべきではないか。未だ終わらぬイラク国内の紛争に苦しむ難民達にこそ、『愛』でも『哀』でもいいから差し向けるべきではないか。先のイラク戦争は大儀がなかった、米軍は占領をやめろ、自衛隊は引き上げよ、と大々的に24時間を使って叫べばいいのだ。

しかしそんなことは、読売新聞系列の日本テレビには出来るはずもないのである。そして24時間テレビは来年も再来年も、マンネリ化した偽善を振りまくことしかできないのだ。

24時間テレビ
http://www.ntv.co.jp/24h/
乙武洋匡オフィシャルサイト
http://sports.nifty.com/ototake/
Yahooニュース『杉田ゴール後に37.8%』
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040824-00000020-spn-ent

(追記)↑のYahooニュースはリンク切れしてしまっているので、以下に全文を引用した。

杉田ゴール後に37.8%(スポニチ

 22日夜にフィナーレを迎えた日本テレビ24時間テレビ27」の瞬間最高視聴率は37.8%だった。

 同番組は21日午後7時45分から22日午後9時34分まで放送。女優・杉田かおる(39)の100キロマラソン終盤の22日午後8時から番組終了までの94分間は25.1%の高視聴率。ゴールした瞬間の9時20分は34.1%で、その3分後の9時23分に最高に達した。全体の平均視聴率は11.7%。

[スポニチ:2004/08/24 10:21]

(04年9月16日 追記)

*1:本稿で使うこの用語に差別的な意味合いが無いわけではないが、構成上用いることにする。どうかご理解いただきたい。

*2: *1同様に差別を含んでいるが、その対比のためにご理解願いたい。