Do you have high lives?

HIGH LIVE

HIGH LIVE

本作は、帰省の折に中古店で見つけてきたライヴ盤である。これで私は、HELLOWEENのCDは、最新作の『KEEPER OF THE SEVEN KEYS THE LEGACY』*1以外は聴いたことになる。

バンドのメンバーは、ミヒャエル・"ヴァイキー"・ヴァイカート<G.>とマーカス・グロスコフ<B.>の最初期メンバーに、アンディ・デリス<Vo.>、ローランド・グラポゥ<G.>、元GAMMA RAYのウリ・カッシュ<Ds.>の5人*2。現在は、グラポゥとカッシュは脱退している。黄金期と言われた『KEEPER OF THE SEVEN KEYS』メンバーから3人が抜け、こんにちの、デリスとヴァイカートを軸としたHELLOWEENのライヴパフォーマンスを聴くことができる。

但し、このバンドは現ヴォーカリストのデリスを加入を期に音楽性が変化している。それはデリスが、前任者の2人――カイ・ハンゼンとミヒャエル・キスケ――に比べて発声できる音域が低く、またメインライターが、"EAGLE FLY FREE"など従来「HELLOWEENらしい楽曲」を作曲してきたヴァイカートから、新参のデリスに自然と移行したためである。

そのため、本作に収録された楽曲は、当時デリス加入以後のアルバム2枚からの選曲が大半を占める。元来デリスのヴォーカルではなかった曲は、1枚目の#4、#6、#8、#9のみ(何れも元はキスケのヴォーカル)である。しかし、前述の通り、デリスの歌唱は前任者たちのそれと極めて異なっているので、雰囲気は異なって聞こえる。具体的に言うと、デリスの歌唱音域に合わせて、全体的にオクターヴを下げて演奏されているのだろう。

私は、HELLOWEENはヴォーカリストがキスケからデリスに変わった時点で別のバンドになったものと認識している。ハンゼン、ヴァイカート、キスケらの黄金期を前期、ハンゼンが抜けた4枚目『PINK BUBBLES GO APE』、5枚目『CHAMELEON』という然して面白くない時期を中期とすると、デリスとヴァイカートの二枚看板による後期HELLOWEENが現在に至るまで継続していると言える。

よってこのライヴアルバムは、「後期HELLOWEEN」という新しいバンドが2枚のアルバムを出しただけで、「前期HELLOWEEN」の楽曲をカヴァーしつつ録音されたと認識するのが妥当であろう。別にそれが悪いと言っているのではない。しかしこのあとに8枚目『BETTER THAN RAW』という良作があったことを結果として考えると、ライヴ盤を出すのが早すぎたという気もする。私が、このライヴアルバムを、最新作を除けば一番最後に手に入れた理由もここにある。本作以降、バンドがライヴ盤を発表していないことも気になる。前述の最新作に伴うツアーの模様を収録したDVDが発表されるそうなので、注目したい。

私はデリスと前任者たちを比較するような言い方をしているが、決して現ヴォーカリストを過小評価している訳ではない。確かに、JUDAS PRIEST以来メタルヴォーカリストに必要不可欠と言われても過言ではないハイトーンヴォーカルを得意としている訳ではないが、それを補う中低音域の歌唱と表現力、更に新参にしてメインライター――事実上のバンドリーダーと言っても過言ではない――となった作曲センスがある。

それでもやはり、元々キスケが唄っていた楽曲をデリスに唄わせることには無理があると思われる。2枚の『KEEPER』アルバムにおいては、特にハンゼンはキスケが唄うことを想定して作曲しているので、合う筈はないと言い切ってもいい。無論、別バンドがかつての佳曲をカヴァーしているという楽しみ方は、メタルファンにはあるけれども。

よって本作は、音楽雑誌『BURRN!』の大野奈鷹美がライナーノーツで記しているように、当時デリスが加入したばかりの、後期HELLOWEENを知るには丁度いいベストアルバムみたいなものである。恐らくバンドもそれを意図して発表したのだろう。但し、今となってはそれ以後にスタジオアルバムだけで4枚も出ているので、その役割は果たしていないかもしれない。




因みにHELLOWEENというバンド名はヴァイカートとグロスコフが牽引し続けて約20年間存続しているが、ライヴアルバムは本作以外にもう1枚しかない。それが『KEEPERS LIVE』*3である。たった7曲しか収録されていないが、若かりし黄金期メンバーの演奏と楽曲の凄さが味わえるのは、今となってはこれしかない。現在、キスケはメタル嫌いを表明して足を洗い、ハンゼンは自身のバンドでよりHELLOWEENっぽい――言うなれば、本家よりも本家らしい――ことをやっている訳で、それ以前に最初のドラマーは既に故人であることから、もう二度と生で聴けない惜しさを感じずにはいられない。多用されて胡散臭くなってしまっている「ケミストリー」という言葉だが、当時のメンバーたちの間には、愛憎半ばし、鬼気迫る迫力を持って、化学反応が起きていたのである。勿体無い、勿体無い。

*1:asin:B000B8I990

*2:拙稿においては、くどいようだが、ドイツ人の名前はドイツ語の発音に近づけてカタカナ書きする。

*3:asin:B00005GYAE